【町田市の税理士が解説】移転価格税制とは?②独立企業間価格の算定編

ミミレイドン

ボス、おはようございます!
昨日は移転価格税制の概要について、取り上げていただきありがとうございました!昨日の続きも教えてください!

新屋賢人

それでは、独立企業間価格の算定方法なんてどうでしょうか?

ミミレイドン

いきなり、超重要な独立企業間価格の算定方法ですか、難しそうですね。。。

新屋賢人

「移転価格は難しい」そう言われる理由は、税務調査で問われるのが“数字”ではなく、“その数字に至った説明”だからです。独立企業間価格(ALP)の算定は、手法を覚えるだけでは不十分です。取引実態に合った“最も適切な方法”をどう選び、どう比較可能性を積み上げるかが勝負になります。本記事では、主要な算定方法を一覧で整理し、どんな場面で何を選ぶべきかを実務目線で解説します。

ミミレイドン

移転価格税制の①制度の概要編については、こちらの記事で解説しておりますので、宜しければご覧ください。
【町田市の税理士が解説】移転価格税制とは?①制度の概要編

独立企業間価格の算定

目次

1.独立企業間価格の算定方法

独立企業間価格(ALP)の算定方法は、取引の内容比較対象データの入手可能性に応じて、「最も適切な方法」を選択する必要があります。主な算定方法の概要、特徴、および適したケースを以下の表にまとめました。

(1).独立企業間価格の算定方法一覧

算定方法概要・計算の仕組み特徴・長所適用に適したケース
独立価格比準法 (CUP法)非関連者間で行われた同種の取引価格を、そのまま独立企業間価格とする方法です。独立企業間価格を算定する最も直接的な方法であり、信頼性が非常に高いとされます。資産の性状、構造、機能が同一、または差異を正確に調整できる場合。
再販売価格基準法 (RP法)買い手が第三者に販売した価格から、通常の利潤(売上総利益)を差し引いて計算します。利益率を比較するため、独立価格比準法に比べて製品の差異による影響を受けにくいのが長所です。買手が卸売業者などの再販売者で、製品に実質的な付加価値を加えない場合。
原価基準法 (CP法)売り手の製造原価等に、通常の利潤(コストプラスマークアップ)を加算して計算します。売上総利益の水準を比較するため、果たした機能やリスクに対する報酬を反映しやすい方法です。半製品の販売、共同支援契約、受託製造、または役務提供取引の場合。
取引単位営業利益法 (TNMM)営業利益の指標(売上高営業利益率など)を比較対象取引と比較する方法です。営業費用を含めた比較を行うため、基本三法よりも差異の影響を受けにくく、公開情報から比較対象を見つけやすいのが特徴です。粗利益に関する詳細な公開データが入手できない場合や、機能が比較的単純な場合。
利益分割法 (PS法)関連者間の合算利益を、それぞれの貢献度(支出費用や使用資産など)に応じて分割します。比較対象取引が見つからない場合でも、各当事者の独自の貢献を評価して利益を配分できます。双方がユニークで価値ある無形資産を拠出している場合や、事業が高度に統合されている場合。
DCF法将来予測される利益やキャッシュ・フローを現在価値に割り引いて算定する方法です。将来の期待収益に基づき、無形資産などの価値を直接的に評価できます。無形資産の譲渡などで比較対象がなく、利益分割法も適用困難な場合。

(2).算定方法選定の優先順位と留意点

  • 基本三法の優先
    独立価格比準法、再販売価格基準法、原価基準法(基本三法)の適用における比較可能性が十分である場合は、これらの手法が優先的に選定されます。
  • 比較可能性分析の重要性
    どの手法を用いる場合でも、資産の内容、機能、契約条件、経済状況などの「比較可能性」を精査することが不可欠です。
  • 棚卸資産以外の取引
    金銭の貸借、役務提供、無形資産取引など棚卸資産の販売・購入以外の取引でも、取引実態に応じて、基本三法・TNMM・利益分割法・DCF法等の枠組みに沿った「同等の方法」を含め最も適切な方法で独立企業間価格を算定します。
  • 推定課税のリスク
    税務当局が求める期限までに、独立企業間価格を算定するための書類(ローカルファイルなど)を提出できない場合、当局が同種の事業者の利益率などを基に所得を算定する推定課税が行われる可能性があります。
新屋賢人

一定規模以上の取引ではローカルファイルを確定申告期限までに作成・保存することが求められ、税務調査等で提出要請があった場合は、原則として45日以内の当局指定日までに提出します(ローカルファイル以外の関連事項等は60日以内の指定日)。これらが指定期限までに提出されない場合、法令に基づき独立企業間価格を推定して更正等が行われ得ます。

2.独立価格比準法 (CUP法)

独立価格比準法(CUP法:Comparable Uncontrolled Price method)は、国外関連取引(親子会社間の取引など)の価格を、それと同様の状況下で行われた第三者間の取引価格と直接比較して、独立企業間価格(ALP)を算定する手法です。

この手法は、移転価格税制において最も直接的かつ信頼性の高い方法とされており、適切な比較対象取引が見つかる場合には、他の手法よりも優先して選定されます。

(1).CUP法の基本的な仕組み

CUP法では、以下の2種類の取引価格を比較します。

  • 国外関連取引
    自社(日本法人P社)と国外関連者(海外子会社S社)との間の取引。
  • 比較対象取引
    特殊な関係にない第三者間で行われる、同種の資産・役務の取引。

(2).具体例(数値を用いた解説)

【基本のケース:直接比較】

  • 状況
    日本法人P社は、海外子会社S社に製品Aを輸出しています。一方、P社は同国にある第三者のX社に対しても、全く同じ製品Aを輸出しています。
  • 数値の仮定
    • P社からS社(子会社)への販売価格:80円
    • P社からX社(第三者)への販売価格:100円
  • 判定
    第三者価格である100円が独立企業間価格となります。
  • 結果
    子会社への販売価格(80円)は独立企業間価格(100円)より低いため、その差額の20円分が海外へ所得移転したとみなされ、日本で課税所得が調整(増額)されます。

【差異があるケース:調整後の比較】

現実には、取引条件が完全に一致することは稀です。そのため、価格に影響を及ぼす差異がある場合は、その差を調整した後の価格を用います。

  • 状況
    子会社S社と第三者T社への販売で、引渡条件が異なるとします。
  • 数値の仮定
    • P社からS社:1,000円(運賃・保険料込みのCIF条件
    • P社からT社:980円(本船渡しのFOB条件
    • 運賃・保険料の合計:20円
  • 調整
    T社(第三者)の価格に運賃・保険料20円を加算します(980円 + 20円 = 1,000円)。
  • 判定
    調整後の第三者価格1,000円と、子会社価格1,000円を比較します。この場合、価格は一致しているため問題なしと判断されます。

(3).CUP法の長所と短所

項目     内容
長所価格そのものを直接比較するため、算定結果の説得力が非常に高い
短所資産の内容(性状、構造、機能など)の厳格な同種性が求められる。
適用困難な例独自のブランド価値がある製品や、高度な技術を用いた特許製品などは、比較可能な「同種」の第三者取引を見つけるのが困難です。

(4).適用に適した取引

  • コモディティ取引
    商品取引所で相場が公表されている原材料や金・銀などの取引。
  • 金融取引
    借手の信用格付が同程度の第三者融資の利息(平均利率3%など)を比較する場合。
  • 内部比較対象取引
    自社が子会社だけでなく、第三者に対しても同じ条件で販売している場合(最も信頼性が高いとされる)。
新屋賢人

CUP法は最も強力な手法ですが、製品のわずかな違いでも価格が変動するため、厳密な比較可能性分析が不可欠です。

3.再販売価格基準法 (RP法)

再販売価格基準法(RP法:Resale Price Method)とは、国外関連者から買い取った製品を、独立した第三者(非関連者)に対して再販売した価格(再販売価格)を基礎として、独立企業間価格を算定する方法です。

この手法は主に、海外の親会社から製品を輸入して国内で販売する「販売活動」を担う企業の取引を検証するのに適しています。

(1).RP法の仕組みと計算式

RP法では、再販売者がその販売活動を通じて得た「売上総利益(粗利益)」の水準に着目します。

【計算の考え方】

  1. 再販売価格(買い手が第三者に売った価格)を出発点とする。
  2. そこから、再販売者が販売費などの営業費用を賄い、かつ果たした機能やリスクに応じた適切な利益を得るための「通常の利潤」を差し引く。
  3. 差し引いた後の残額が、最初の国外関連取引における独立企業間価格(妥当な仕入価格)となる。

【計算式】

  • 独立企業間価格 = 再販売価格 -(再販売価格 × 通常の利益率)
    ※通常の利益率 = 比較対象取引における「売上総利益 ÷ 売上高」

(2).数値を用いた具体例

日本の子会社S社が海外の親会社P社から製品を輸入して販売するケースで考えます。

① 国外関連取引(検証したい取引)

  • 海外の親会社P社 → 日本の子会社S社への販売価格:115円(実際の仕入価格)
  • 子会社S社 → 日本の第三者A社への再販売価格:120円
  • このとき、S社の現在の売上総利益は5円(120円 – 115円)、利益率は約4.17%です。

② 比較対象取引(第三者間の似た取引)

独立した第三者間で、同種または類似の製品を販売しているY社のデータを用います。

  • 第三者X社Y社への販売価格:90円
  • Y社 → 第三者Z社への販売価格:100円
  • Y社の売上総利益は10円(100円 – 90円)であり、通常の利益率は10%(10円 ÷ 100円)となります。

③ 独立企業間価格の算定

S社の再販売価格(120円)に、比較対象から得られた通常の利益率(10%)を当てはめます。

  • 120円 - (120円 × 10%) = 108円

④ 判定

  • 独立企業間価格(本来あるべき仕入価格)108円
  • 実際の仕入価格115円
  • 結果:S社はP社から独立企業間価格より7円高い価格で仕入れており、その分だけ日本の課税所得が減少し、海外へ所得が移転したとみなされます

(3).RP法活用のポイント

  • 製品差異に比較的強い:独立価格比準法(CUP法)が「製品そのものの同一性」を厳格に求めるのに対し、RP法は「売上総利益(機能への報酬)」を比較するため、製品に多少の差異があっても、果たしている機能が類似していれば適用可能です。
  • 付加価値を加えない場合に適している:再販売者が製品に大幅な加工を施したり、独自の強力な無形資産(ブランド等)を付加したりして「製品の個性が変わってしまう」場合には、適切な利益率の算定が難しくなるため適用が困難です。
  • 機能の類似性が重要:利益率は、再販売者が負うリスク(在庫リスク、保証リスク等)や果たす機能(広告宣伝、アフターサービス等)の重さに左右されます。そのため、比較対象を選ぶ際はこれらの機能面が似ていることが重要です。
新屋賢人

RP法は、卸売業者や単純な販売代理店などの検証において、経済的実態を反映しやすい非常に有力な手法です。

4.原価基準法 (CP法)

原価基準法(Cost Plus Method:CP法)とは、国外関連取引における資産の売手の取得原価に、その取引と類似の状況下で行われる第三者間取引(比較対象取引)から算出される通常の利潤(マークアップ)を加算して、独立企業間価格を算定する方法です。

(1).原価基準法の計算の仕組み

独立企業間価格は、以下の算式で算出されます。

独立企業間価格 = 取得原価 +(取得原価 × 通常の利益率

ここでいう「通常の利益率」とは、国外関連取引の売手(または類似の機能を果たす第三者)が、非関連者に対して販売した際に得た、売上原価に対する売上総利益の割合を指します。

(2).具体例(数値を用いた解説)

【ステップ1:比較対象取引から通常の利益率を算出】

  • 状況
    独立企業B社は、製品cを第三者A社から100円で仕入れ、これを別の第三者C社に115円で販売したとします。
  • 計算
    • 売上総利益 = 115円(売上) - 100円(原価) = 15円
    • 通常の利益率 = 15円 ÷ 100円 = 15%

【ステップ2:国外関連取引への適用】

  • 状況
    日本法人S社は、製品cと類似の製品dを第三者から90円で仕入れ、国外関連者である親会社P社に販売しています。
  • 計算(独立企業間価格の算定)
    • 90円(原価) +(90円 × 15%) = 103.5円
  • 判定
    • もしS社が実際にP社へ100円で販売していた場合、独立企業間価格(103.5円)に比べて3.5円少なく販売したことになります。
    • この差額の3.5円分が海外へ所得移転したとみなされ、日本の課税所得が調整(増額)されます。

(3).原価基準法の長所と適したケース

  • 機能・リスクの反映
    売上総利益の水準を比較するため、企業が果たした機能や引き受けたリスクに対する報酬を反映しやすいのが特徴です。
  • 製品差異に対する許容度
    製品そのものの差異よりも機能の類似性を重視するため、独立価格比準法(CUP法)に比べて、製品のわずかな差異による影響を受けにくいという長所があります。
  • 適したケース
    • 受託製造(受託加工):相手方の指示に従って製造し、全量買い取りが保証されているような低リスクの取引。
    • 役務提供(サービス)取引:経営指導、技術援助、事務的サービスなどの提供。
    • 半製品の販売や共同支援契約。

(4).適用上の留意点

  • 原価の構成の一貫性
    比較を行う際は、直接費、間接費(製造間接費、一般管理費など)の区分が、自社と比較対象企業の間で一致している必要があります。会計処理が異なる場合は、適切な差異調整が不可欠です。
  • 検証対象の選定
    通常、機能がより単純で、ユニークな無形資産を保有していない方を検証対象(売手)とすることが、信頼性の高い比較を行うために望ましいとされています。
新屋賢人

原価基準法は、特にコストが明確な製造拠点やサービス提供拠点の適正利益を検証する際に非常に有効な手法です。

5.取引単位営業利益法(TNMM:Transactional Net Margin Method)

取引単位営業利益法(TNMM:Transactional Net Margin Method)は、国外関連取引(グループ会社間などの取引)から得られる営業利益の水準(利益指標)を、売上高、原価、資産といった適切な基礎と比較し、独立企業間価格を算定する手法です。

日本の税制やOECDガイドラインにおいて、価格そのものを比較する「基本三法」を適用するための十分な情報が得られない場合などに、「最も適切な方法」として広く活用されています。

(1).TNMMの仕組みと主な利益指標

TNMMでは、取引の当事者のうち、より単純な機能を果たし、ユニークな無形資産を持たない側を「検証対象者」として選び、その営業利益率を検証します。

取引の内容に応じて、主に以下の3つの指標が使い分けられます。

  • 売上高営業利益率
    営業利益 ÷ 売上高。主に海外の販売子会社を検証する場合に適しています。
  • 総費用営業利益率
    営業利益 ÷ 総費用(売上原価 + 販売費及び一般管理費)。主に製造子会社や役務提供会社を検証する場合に適しています。
  • 営業費用売上総利益率(ベリー・レシオ)
    売上総利益 ÷ 営業費用。在庫リスクを負わない仲介業者などの検証に用いられます。

(2).TNMMの長所:なぜ広く使われるのか

  • 差異の影響を受けにくい
    価格を直接比べる方法(CUP法)は製品のわずかな違いで結果が変わりますが、TNMMは販管費を含めた「営業利益」で比較するため、機能の多少の差異が営業費用の差として吸収され、結果が安定しやすい特徴があります。
  • 情報の入手が容易
    売上総利益(粗利)のデータは外部から入手しにくいことが多いですが、営業利益ベースのデータは企業の公開情報やデータベースから比較的入手しやすいため、比較対象を見つけやすいのが利点です。

(3).具体例(数値を用いた解説)

日本の子会社S社が、海外の親会社P社から製品を輸入して日本国内で販売しているケースを想定します。

① 検証対象者(S社)の現在の実績

  • 売上高:1,000円
  • P社からの仕入高(売上原価):850円
  • 販売費及び一般管理費(販管費):130円
  • S社の営業利益:20円(1,000 – 850 – 130)
  • S社の実績営業利益率2.0%(20円 ÷ 1,000円)

② 比較対象取引の選定

データベース等から、S社と機能やリスクが類似している独立した第三者企業(A社、B社、C社)を選定し、その利益率を調べます。

  • 比較対象企業の営業利益率の平均値(または中央値):5.0%

③ 独立企業間価格の算定と調整

S社の売上高に、独立した第三者の標準的な利益率(5.0%)を当てはめて、本来あるべき営業利益を算出します。

  • 適正な(独立企業間)営業利益1,000円 × 5.0%50円
  • 実績との差額50円(あるべき利益) - 20円(実績) = 30円

判定と結果: S社の実際の営業利益(20円)は、独立企業間の水準(50円)を下回っています。この差額30円分は、P社からの仕入価格が独立企業間価格より高すぎたために、日本の課税所得が海外へ流出したとみなされます税務調査では、この30円を所得に加算して課税が行われることになります。

(4).適用上の留意点

  • 営業利益の範囲
    原則として、本業の活動から生じた損益のみを用い、受取利息や法人税などの営業外・特別損益は除外して計算します。
  • 一貫性
    自社と比較対象企業の間で、会計処理(費用を売上原価に入れるか、販管費に入れるか等)の基準を一致させる必要があります。
  • 片側検証の限界
    TNMMは片方の利益しか見ないため、もし両当事者がユニークな技術やブランド(無形資産)を持っている場合は、両者の利益を分ける「利益分割法」の方が適切となる場合があります。

6.利益分割法 (PS法)

利益分割法(PS法:Profit Split Method)とは、国外関連取引によって法人(日本側)と国外関連者(海外側)に生じた合算利益を、それぞれの果たした機能、使用した資産、引き受けたリスクといった「寄与度」に応じて配分することで、独立企業間価格を算定する手法です。

この方法は、取引の両当事者がユニークで価値のある無形資産(独自の技術やブランドなど)を拠出している場合や、事業活動が高度に統合されていて一方の利益だけを切り出すのが難しい場合に特に有用です。

(1).利益分割法の3つの類型

  • 比較利益分割法 (CPSM)
    類似の状況下にある第三者間での利益分割割合を用いる方法です。
  • 寄与度利益分割法
    人件費、広告宣伝費、投下資本などの費用や資産の額を「分割要因(利益の発生への寄与度)」として、合算利益を分ける方法です。
  • 残余利益分割法 (RPSM)
    最も一般的で、以下の「二段階」で利益を配分します。
    1. 第一段階:無形資産を用いない標準的な活動(ルーティン機能)に対する「基本的利益」を、比較対象企業の利益率を参考に配分する。
    2. 第二段階:残った利益(残余利益)を、独自の無形資産などの「寄与度」に応じて分割する。

(2).具体例(数値を用いた残余利益分割法の解説)

電子製品の部品を製造するA社と、それを受け取り完成品を製造・販売するB社のケースで説明します。

① 両社の損益状況と合算利益

  • A社(部品製造):研究開発費15を投じ、ユニークな部品を製造。
  • B社(最終製造・販売):研究開発費10を投じ、ユニークな完成品を製造。
  • 合算利益(純利益):10(A社とB社の利益の合計)

② ステップ1:基本的利益(ルーティン利益)の配分

無形資産を持たない一般的な製造業者の利益率が「製造原価の10%」であると仮定します。

  • A社の製造原価が15の場合:15 × 10% = 1.5
  • B社の製造原価が20の場合:20 × 10% = 2.0
  • 基本的利益の合計 = 3.5

③ ステップ2:残余利益の計算と配分

合算利益から、基本的利益を差し引いたものが「残余利益」です。

  • 残余利益 = 10 3.5 6.5

この6.5を、独自の無形資産形成のために支出した「研究開発費の比率(A社15:B社10)」で分けます。

  • A社への配分:6.5 × 15/25 = 3.9
  • B社への配分:6.5 × 10/25 = 2.6

④ 最終的な利益配分(独立企業間価格に基づく利益)

各社に「基本的利益」と「残余利益」を足し合わせます。

  • A社の最終利益:1.5(基本) + 3.9(残余) = 5.4
  • B社の最終利益:2.0(基本) + 2.6(残余) = 4.6

このように、比較対象となる第三者の取引価格が見つからない場合でも、両社の貢献度を数値化(この例では研究開発費)することで、適正な利益配分を導き出すことができます


(3).利益分割法を適用すべきケース

  • 独自の無形資産
    両当事者が特許、ノウハウ、ブランドなどの重要な無形資産を保有している場合。
  • 高度な統合
    グローバルトレーディングのように、拠点間の活動が一体化しており、個別の機能を切り離せない場合。
  • 比較対象の不在
    一方の当事者が単純な機能しか持っていない場合(TNMMなどが適している)を除き、適切な比較対象取引が見つからない場合。
新屋賢人

利益分割法は、分割対象となる利益の計算(営業利益を用いるのが原則)や、寄与度を測るための財務データの収集など、適用には詳細な分析と一貫性のある会計基準が必要です。

7.DCF法

ディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)とは、国外関連取引に係る資産(主に無形資産)の使用などによって生じると予測される将来の利益(キャッシュ・フロー)を、合理的な割引率を用いて現在価値に割り引いた合計額をもって、独立企業間価格を算定する手法です。

この手法は、独自の特性を持ち高い付加価値を創出する「ユニークで価値ある無形資産」の譲渡などにおいて、比較対象となる取引を見出すことが困難であり、かつ利益分割法の適用も適さない場合に、非常に有用な算定方法とされています。

(1).DCF法の基本的な仕組み

DCF法では、その無形資産が将来にわたってどれだけのキャッシュ・フローを生み出すかという「期待収益」に着目します。

  • 予測利益の算出
    信頼性が確保された事業計画に基づき、予測期間(無形資産の法的保護期間や技術的寿命などを考慮)における利益を見積もります。
  • 割引率の適用
    将来の利益には不確実性(リスク)が伴うため、金銭の時間的価値と事業リスクを反映した割引率(加重平均資本コスト:WACCなど)を用いて現在価値に換算します。
  • 税効果の考慮
    予測利益から法人税等を控除し、さらに譲受側で無形資産の償却による節税効果(税務上のキャッシュ・フロー増加)が生じる場合は、これも価値に加算します。

(2).具体的な算定プロセス(無形資産譲渡のケース)

実務的な算定手順は以下の通りです。

  1. 事業全体の予測利益を算出
    対象となる無形資産を含む事業全体の営業利益を予測します。
  2. ルーチン利益の控除
    製造や販売といった「単純な機能」に見合う通常の利益(TNMMなどの考え方で算出)を、全体の利益から差し引きます。これにより、無形資産そのものに帰属する残余の予測利益を特定します。
  3. 税引後利益の計算
    法人実効税率に基づき、税引後の営業利益を算出します。
  4. 割引現在価値の合計
    各年度の利益を割引率で現在価値に直し、合計します。

(3).具体例(数値を用いた解説)

日本法人P社が、独自技術(特許権等)を海外子会社S社に譲渡する事例を想定します。

【前提条件】

  • 予測期間:10年間
  • 割引率(WACC):10%
  • 実効税率:30%
  • ルーチン利益率:売上高の7%(比較対象取引から算出)
  • S社の売上予測(初年度):1,000円
  • S社の営業利益予測(初年度):200円

【計算の流れ(初年度 N+1年度の例)】

  1. 無形資産に帰属する利益の特定
    • 事業全体の営業利益:200円
    • ルーチン利益:1,000円(売上)× 7% = 70円
    • 特許権等に係る税引前利益:200円 - 70円 = 130円
  2. 税引後利益の算出
    • 130円 × (1 - 30%) = 91円
  3. 現在価値への換算
    • 現価係数(10%割引):0.953(期央発生を想定)
    • 割引現在価値:91円 × 0.953 = 約87円

【最終的な対価の決定】

  • 10年間の割引現在価値の合計
    同様の計算を10年分行い合計すると、例えば657円となります。
  • 償却による節税効果の加算
    S社がこの無形資産を5年で償却し、税金が安くなる効果(タックスシールド)の現在価値を算出します。これが仮に23.85%の価値増加要因となる場合、最終的な譲渡対価は以下のように計算されます。
    • 657円 ÷ (1 - 0.2385) = 863円

この863円が、この事例における独立企業間価格となります。


(4).適用上の留意点

  • 事業計画の妥当性
    予測が「保守的すぎないか」または「楽観的すぎないか」が厳格に検証されます。
  • 情報の非対称性
    当局は納税者ほど事業の詳細を把握できないため、事後的に実際の結果が予測と大きく乖離した場合、その乖離を「予測が適切でなかった証拠」とみなして調整を行う「価格調整措置(HTVIアプローチ)」が適用される可能性があります。
  • 他の手法との併用
    DCF法は不確実な要素を含むため、複数の算定手法の候補がある場合は、DCF法以外の方法が優先的に検討されます。
新屋賢人

DCF法は、数値の置き方一つで結果が大きく変動するため、算出の根拠となる前提条件の合理性を論理的に説明できることが不可欠です。

8.まとめ:算定方法の選定は「事実認定」と「論理性」が鍵

独立企業間価格の算定方法には、それぞれ明確な長所と短所、そして適用すべき条件があります。

  • 基本三法(CUP法等): 信頼性は高いが、厳密な比較対象が必要。
  • TNMM: 比較対象が見つけやすく実務で最も多く使われるが、機能分析が重要。
  • 利益分割法・DCF法: 独自の無形資産がある高度な取引に有効だが、計算の複雑さと前提条件の妥当性が問われる。

重要なのは、単に計算式に数字を当てはめることではありません。「なぜその手法を選んだのか(他の手法ではない理由は何か)」「比較対象とした企業は本当に類似しているか」というプロセスを論理的に説明できることです。

移転価格税制は、企業の事業実態や機能・リスクの分析(事実認定)から始まります。万が一、税務調査で算定方法の誤りを指摘された場合、その影響額は莫大になります。

本記事で解説した内容は基本的な枠組みとなります。実際のローカルファイル(移転価格文書)の作成やリスク分析にあたっては、個別の取引事情を勘案する必要があるため、移転価格に詳しい国際税務の専門家へ相談されることを強く推奨します。

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この記事を書いた人

町田市にあるコムレイド税理士事務所の代表税理士の新屋賢人です。大学卒業後、中堅税理士法人で5年間、業界最大手である国際四大会計事務所(BIG4)のEY税理士法人で8年間、計13年間の実務経験があります。
30代ですが、すでに法人・個人問わず幅広い業務を経験しております。BIG4という業界最大手で得た経験・知識を生まれ育った街に還元したいという強い思いから独立を決めました。

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