【町田市の税理士が解説】グローバル・ミニマム課税(BEPS 2.0 Pillar 2)の基礎知識について

ミミレイドン

ボス、おはようございます!
今朝のテーマはなんでしょうか?

新屋賢人

今朝はグローバル・ミニマム課税(BEPS 2.0 Pillar 2)の概要について、整理していきたいと思います。

ミミレイドン

BEPS 2.0 Pillar 2?なんで急に英語なんですか。

新屋賢人

日本の企業だけではなく、全世界の多国籍企業が同じ土俵でビジネスを行うための国際的なルールだからです。主要ルールであるIIRは2024年4月1日以後に開始する対象会計年度から適用されておりますので、日本でもすでに影響が出始めています。対象となる企業は限られておりますが、世界の税制ではどのような事が起こっているのかについて、知っておくことは非常に重要です。今回はルールの概要部分を確認してみましょう。

目次

1. はじめに

(1).国際課税の背景:デジタル経済の拡大と租税回避問題

近年、国際的なビジネスの風景は一変しました。デジタル技術の進展により、企業はもはや物理的な店舗や工場といった「恒久的施設(PE)」を持たなくても、国境を越えてサービスや商品を販売できるようになりました。

この変化は大きなメリットをもたらしましたが、同時に深刻な税の問題を引き起こしました。多国籍企業は、ケイマン諸島やパナマといった「タックスヘイブン」と呼ばれる低税率の国・地域に利益を移転する、いわゆる「租税回避」を積極的に行うようになりました。

その結果、本来課税されるべき国の税収が圧迫され、税の公平性が損なわれたのです。さらに、各国が企業誘致のために法人税率を競うように引き下げる「法人税引下げ競争(race to the bottom)」が横行し、世界の税収基盤が揺らぎ始めました。

(2).OECD/G20によるBEPSプロジェクトの流れ

このアンフェアな状況に歯止めをかけるため、2013年にOECD(経済協力開発機構)が中心となり、国際課税ルール全体を見直す「BEPSプロジェクト」(税源浸食と利益移転)が立ち上がりました。

そして、長年の議論を経て、2021年10月には日本を含む約140の国・地域が参加する「BEPS包摂的枠組み(Inclusive Framework)」において、歴史的な国際課税の再構築に関する大枠合意が実現しました。

(3).BEPS 2.0の「二本柱」の概要(Pillar 1とPillar 2の違い)

この国際合意は、現代のデジタル経済が抱える税の課題に対処するための「二本柱」から構成されています。

柱の名称目的内容(何をターゲットにしているか)
第1の柱(Pillar 1)課税権の再配分巨大多国籍企業(売上200億ユーロ超、利益率10%超)の残余利益の一部を、顧客がいる市場国に新たに課税する権利を与える。
第2の柱(Pillar 2)グローバル・ミニマム課税売上7.5億ユーロ以上の多国籍企業に対し、各国で最低15%の税負担を確保する。

この「第2の柱」、すなわちグローバル・ミニマム課税こそが、世界中の大企業に直接的な影響を与える「100年に一度の大改正」の本命です。

2. グローバル・ミニマム課税(Pillar 2)の基本枠組み

グローバル・ミニマム課税(正式名称:GloBEルール)は、全世界の多国籍企業が同じ土俵でビジネスを行うための「法人税のミニマム(最低基準)」を設定するものです。

(1).対象企業:年間総収入7.5億ユーロ以上の多国籍企業グループ

この制度の対象は、極めて大規模な企業グループに限定されています

具体的には、グローバル連結総収入金額が7億5,000万ユーロ(約1,100億円)以上の多国籍企業グループです。この基準は、直前の4対象会計年度のうち2つ以上でこの値を超えているかによって判定されます。

中小企業やスタートアップは直接的な対象ではありませんが、サプライチェーンを通じて間接的な影響を受ける可能性があり、その基本知識は不可欠です。

(2).最低税率:各国で実効税率15%以上を確保する仕組み

グローバル・ミニマム課税が目指す最低税率は15%です。

ここで重要なのは、「15%」が単に法定税率(国が定めた税率)ではないということです。この制度では、企業が実際に納めた税金と、企業がその国で獲得した利益を用いて、国ごとに「実効税率(ETR)」を再計算します。

もし、この国別実効税率が15%を下回った場合、その不足分を上乗せして課税する仕組みが発動されます。これが「トップアップ課税」です。これはまるで、国際的な法人税の「最低賃金」が設定されたようなものです。

(3).適用開始:2024年4月1日以降の会計年度から

日本では、このグローバル・ミニマム課税制度のうち所得合算ルール(IIR)が、2024年(令和6年)4月1日以後に開始する対象会計年度から既に適用が開始されています。

多くの日本国内の3月決算企業にとって、2025年3月期がこの新税制の最初の適用年度となり、対応が急務となっています。

3. 主要ルールの解説

トップアップ税額を徴収するためのルールは主に3つあり、まるで国際的な「税のパトロール隊」のように、税率の低い利益を取り逃さないよう設計されています。

(1).IIR(Income Inclusion Rule):親会社レベルで低税率子会社の所得を合算課税

IIR(所得合算ルール)は、メインとなるルールです。

これは、親会社が所在する国が、その低税率の子会社の不足分(15%に満たない部分)を親会社に上乗せして課税する仕組みです。日本に本社がある多国籍企業グループが海外の軽課税国に子会社を持つ場合、日本の税務当局がこのIIRに基づき、親会社に課税します

資本系列の上位にある親会社から優先的に課税権を行使する、トップダウン・アプローチが採用されています。

(2).UTPR(Undertaxed Profits Rule):軽課税国に所在する企業の利益を他国で課税

IIRが機能しない場合のバックストップ(補完)ルールがUTPR(軽課税所得ルール)です。

例えば、親会社がIIRを導入していない国に所在しているため、IIRによる課税ができない場合、UTPRを導入している他の国の子会社などが、その不足分のトップアップ税を代わりに負担します。

この課税額は、グループ全体の活動実体(従業員数や有形資産の簿価)に応じて、UTPR導入国間で配分されます。日本においては、令和8年(2026年)4月1日以後に開始する対象会計年度から適用されます

(3).QDMTT(Qualified Domestic Minimum Top-up Tax):自国で最低税率を確保する国内ミニマム課税

QDMTT(適格国内ミニマム課税)は、他国からの課税を防ぐための盾の役割を果たします。

これは、ある国が自国の企業に対して、他国のIIRやUTPRに先んじて15%に達するまで課税を行う制度です。QDMTTを導入すれば、その国に所在する企業については、他国からトップアップ課税を受ける必要がなくなります(QDMTTセーフハーバー)。

これにより、税収を自国に留保できるため、多くの国がQDMTTの導入を進めています。日本においても、令和8年(2026年)4月1日以後に開始する対象会計年度から適用されます

参照:財務省主税局参事官室 令和7年度税制改正と「2本の柱」の議論の現状

4. 日本における制度導入と税制改正

(1).令和5年度税制改正:IIRの導入

日本は、国際合意にいち早く対応し、令和5年度税制改正において、IIR(所得合算ルール)に対応する「各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税」を創設しました。このIIRは、2024年4月1日以後に開始する対象会計年度から適用されています。

(2).令和7年度税制改正:UTPR・QDMTTの法制化

令和7年度税制改正では、グローバル・ミニマム課税の法制化が完了しました。

UTPR(軽課税所得ルール):「各対象会計年度の国際最低課税残余額に対する法人税」として法制化されました。

QDMTT(国内ミニマム課税):「各対象会計年度の国内最低課税額に対する法人税」として法制化されました。

これらのルールは、対象企業の準備期間を確保するため、2026年(令和8年)4月1日以後に開始する対象会計年度から適用されます。

(3).国税庁・財務省による手続き・申告様式の整備

この新税制の導入に伴い、企業には新たな申告・報告義務が生じます。

企業は、国別のトップアップ税額の申告書に加え、膨大な情報を記載する「GloBE情報申告書(GIR)」を提出する必要があります。GIRは、30ページ以上に及ぶ複雑な報告であり、グループ全体(全世界)の所得、税額、計算の内訳などを詳細に記載しなければなりません。

申告期限は、原則として対象会計年度終了の日の翌日から1年3か月以内ですが、初回の申告は1年6か月以内に延長されています。3月決算企業の場合、IIRの最初の申告・納付期限は2026年9月末となります。国税庁や財務省は、制度の詳細や申告手続きに関するQ&Aや解説を順次公表し、周知を図っています。

5. 実務への影響

グローバル・ミニマム課税は、税務部門だけでなく、経理、財務、IT部門、そして経営層全体に影響を及ぼします。

(1).多国籍企業の税務戦略・グループ内再編への影響

租税回避の道が閉ざされるため、企業はもはや税率の低さだけを理由に子会社を設立したり、利益を移転したりすることはできません。

今後は、事業実体、すなわち従業員への給与支払いや有形資産の保有に基づいた所得の一定割合が課税ベースから除外される「実質ベースの所得除外(SBIE)」が適用されます。これにより、ペーパーカンパニーではなく、実態のある経済活動を伴う国での事業展開を重視する戦略への転換が求められます。

(2).会計処理(IAS第12号改訂による繰延税金の扱い)

会計処理においても大きな変化が生じています。

国際会計基準(IFRS)および日本基準(J-GAAP)では、グローバル・ミニマム課税制度による影響を計算に入れた繰延税金資産・負債の認識と開示を当面の間、行わないという一時的な例外規定が導入されています。

しかし、実際に課税されるトップアップ税額(当期税金)合理的な金額を見積もり、損益に計上することが義務付けられています。特に四半期決算では、この見積もりを計上するかどうかは当面の間、企業に裁量が認められています。

(3).日本企業が直面する課題:データ収集、システム対応、グローバル調整

日系企業が直面する実務上の課題は山積しています。特に「多大な事務負担」が最大の懸念です。

  1. データ収集の困難さ
    IIRやGIRに必要なデータは、従来の税務申告や国別報告書(CbCR)では収集されていない膨大なデータポイントに及びます。これを全世界の子会社から統一的な粒度で、かつ迅速に収集することが大きな壁となります。
  2. システム対応の必要性
    複雑な計算と集計を短期間で行うため、Excelなどの手作業ではヒューマンエラーや申告遅延のリスクが高すぎます。DXツールを導入し、業務プロセスを抜本的に見直すことが不可欠です。
  3. グローバル調整とガバナンス
    QDMTTの導入国が増える中で、現地法令に基づく対応と、日本親会社主導のGIR作成に必要な情報収集とのグローバルな連携体制(税務ガバナンス)の構築が求められます。

6. 今後の展望

(1).国際協調の進展と各国の制度導入状況

グローバル・ミニマム課税は世界中で導入が進んでおり、日本のIIRもOECDの暫定適格レビューで「適格」と認定されています。

しかし、国際環境には大きな不確実性が存在します。米国はPillar 2に対応する国内法が十分に整備されておらず、
一部では、グローバル・ミニマム課税を導入した国を標的とした「報復課税」(Section 899など)の議論も起きるなど、国際課税ルールは多極化の時代に突入しています。企業は、国際協調と多極化が混在するこの環境への柔軟な対応が求められます。

(2).日本企業が取るべき対応ロードマップ

この大改正を単なる負担と捉えるのではなく、「税務ガバナンスを強化する絶好のチャンス」と捉えるべきです。

ステップ           対応内容提言のポイント
Step 1: 早期スクリーニング移行期間CbCRセーフハーバー(TCSH)の適用可否を最優先で判定TCSHが適用されれば、初年度の事務負担が大幅に軽減されます。「Once out, always out」のルールに注意し、早期に判断することが重要。
Step 2: DX基盤の構築税務DXツール(KBAT, Pillar Two Engine等)データ収集・管理プロセスを標準化。複雑な計算とGIR(30ページ超)の作成を自動化し、ヒューマンエラーを防ぎます。
Step 3: ガバナンスの強化「不必要な税金は払わない」というポリシーのもと、本社主導で海外子会社との連携体制を構築。QDMTT導入国との連携、IIR申告に必要な情報の一元管理など、グループ横断の責任体制を明確化します。

(3).中小企業や非対象企業への間接的影響

グローバル・ミニマム課税の対象外である中小企業やスタートアップも、無関係ではいられません。

  1. 取引先(大企業)からの情報提供要請
    大企業がGloBEの計算を行う際、サプライヤーや協力会社といった取引先に対し、関連する税務データや情報の提供を求めてくる可能性があります。
  2. ITシステムへの影響
    大企業のシステム改修に伴い、取引先もERPや会計システムの仕様変更を迫られる可能性があります。
  3. 将来的な適用拡大リスク
    今後、制度の対象がより小規模な企業に拡大される可能性も否定できません。

自社が直接の納税義務者でなくても、制度の基本を理解し、データ連携や情報管理の体制を整えておくことが、将来的な競争力に直結します。

7. まとめ

(1).グローバル・ミニマム課税の意義:租税回避防止と公平な課税

グローバル・ミニマム課税(Pillar 2)は、税率が低すぎる国への利益移転という「税の抜け道」を塞ぎ、世界全体で法人税引き下げ競争に歯止めをかけ、国際的な税の公平性を回復するという、極めて大きな意義を持っています。

これは、公正な競争条件を確保するという点で、日本企業にとってもメリットが大きい取り組みです。

(2).実務対応の重要性:早期準備とグローバル連携

IIRの適用が始まった今、実務対応の重要性は高まる一方です。

特に、初年度の申告に向けて、まずは移行期間CbCRセーフハーバーの適用可否を早期に確認し、DXツールを活用して複雑な計算と膨大なGIRの報告を正確かつ効率的に処理する体制を急ぐべきです。本社と海外子会社が連携するグローバルな税務ガバナンス体制の構築が、この難局を乗り切るための最重要課題です。

(3).今後の税制改正情報を継続的にフォローする必要性

Pillar 2は、OECDから継続的に執行ガイダンスが公表され、各国の国内法に反映されることで、常にルールが変化している過渡期の制度です。

特に、UTPRやQDMTTの運用が本格化する2026年4月以降を見据え、また米国の動向といった不確実な要素にも柔軟に対応するため、今後の税制改正情報を継続的にフォローし、変化への準備を怠らない姿勢こそが、超優秀な経営層に求められる資質です。

この世界的な税制変革を、自社の税務体制を根本から見直し、企業価値を高めるための「大いなるチャンス」として活かしましょう。

国税庁ホームページでは、事業年度ごとに国際最低課税額に対する法人税に関するQ&Aを公開しております。こちらもご参照ください。
各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税に関するQ&A(令和7年10月改訂)(令和6年4月1日から令和7年3月31日までの間に開始する対象会計年度対応分)
各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税に関するQ&A(令和7年10月)(令和7年4月1日から令和8年3月31日までの間に開始する対象会計年度対応分)

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この記事を書いた人

町田市にあるコムレイド税理士事務所の代表税理士の新屋賢人です。大学卒業後、中堅税理士法人で5年間、業界最大手である国際四大会計事務所(BIG4)のEY税理士法人で8年間、計13年間の実務経験があります。
30代ですが、すでに法人・個人問わず幅広い業務を経験しております。BIG4という業界最大手で得た経験・知識を生まれ育った街に還元したいという強い思いから独立を決めました。

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