【町田市の税理士が解説】確定申告に向けた業種別事業所得の計算の注意点:製造業編(菓子・食品製造業)

ミミレイドン

ボスおはようございます!
今朝のテーマは何でしょうか?

新屋賢人

今朝は確定申告に向けた業種別事業所得の計算の注意点第四弾と致しまして、製造業(菓子・食品製造業)について整理して行きたいと思います。

ミミレイドン

製造業(菓子・食品製造業)って具体的にはどんなお店を想像すればよいですか?

新屋賢人

ケーキ屋さんやパン屋さんを想像しながら確認していければと思います。
「毎日一生懸命お菓子を作っているのに、なぜか手元にお金が残らない」「売れば売るほど苦しくなっている気がする……」そんな悩みをお持ちではありませんか?
大好きなお菓子作りを仕事に選んだパティシエやパン職人にとって、確定申告は「難しそうで、できれば避けたいもの」かもしれません。 特に製造業は、単に仕入れて売るだけの商売とは異なり、原材料から製品へと姿を変える工程があるため、「製造原価報告書」の作成や「仕掛品の棚卸し」といった非常に複雑な壁が立ちはだかります。
しかし、確定申告は単なる納税のための義務ではありません。実は、自分のお店の「健康状態」を正しく知り、利益を劇的に改善するための絶好のチャンスなのです。 日々の材料費や「まかない」の処理、高額な厨房機器の減価償却などを正しく理解し、適切に申告することは、そのままお店を永続させるための「経営力」へと直結します。
本記事では、菓子・食品製造業特有の複雑なルールを分かりやすく解きほぐし、青色申告の特典を最大限に活かしてしっかり節税する方法から、税務調査で指摘されやすい意外な落とし穴までを徹底解説します。

ミミレイドン

ケーキ屋さんやパン屋さんは、製造(作る)だけでなく、店頭での販売(売る)も行うため、製造業に加えて小売業の視点も重要になります。
小売業に関する確定申告のポイントは、昨日公開したこちらの記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
【町田市の税理士が解説】確定申告に向けた業種別事業所得の計算の注意点:小売業編

【製造業編(菓子・食品製造業)】

目次

1.事業所得とは?(おさらい)

事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業などの事業を営んでいる人の、その事業から生ずる所得を指します。

個人事業主が稼いだ所得が「事業所得」に該当するかどうかは、営利性と有償性があるか反復継続して遂行されているか自己の責任と計算において計画的に行われているかといった基準から総合的に判断されます。これらを満たさない比較的小規模で不定期な所得(副業など)は、原則として「雑所得」に分類されます。なお、不動産の貸付けや山林の譲渡による所得は、原則として「不動産所得」や「山林所得」となります。

(1).計算方法

事業所得の計算方法は、以下の式で算出されます。

事業所得の金額 = 総収入金額 - 必要経費

  • 総収入金額
    事業から生ずる売上金額のほかに、商品を自家用に消費した「自家消費(家事消費)」の価額、空箱や作業くずの売却代金、仕入割引やリベート収入、事業用資産について受けた損失を補填する保険金や損害賠償金などが含まれます。
  • 必要経費
    収入を得るために直接必要な費用のことです。主な項目には、売上原価(仕入)、給与・賃金、地代家賃、減価償却費、水道光熱費、広告宣伝費、通信費などが挙げられます。
新屋賢人

総収入金額や必要経費の詳細については次章を以降で解説します。

(2).計算・申告の際の主なポイント

  • 家事按分
    自宅兼店舗の家賃や光熱費など、事業用とプライベートの両方に関連する費用については、事業の遂行上必要な部分を合理的な基準(面積や時間など)で按分し、その分のみを必要経費に計上できます。
  • 青色申告の特典
    事前に税務署へ届け出て「青色申告」を行うことで、所得金額から最大65万円を差し引ける「青色申告特別控除」、家族への給与を経費にできる「青色事業専従者給与」、赤字を翌年以降3年間繰り越せる制度などの節税メリットを受けられます。
  • 棚卸し
    製造業や小売業などでは、年末に売れ残った商品の在庫を数える「棚卸し」を行い、期末棚卸高を確定させる必要があります。これにより、当期に売れた分に対応する正しい売上原価を算出します。
新屋賢人

事業所得がある個人事業主は、原則として1月1日から12月31日までの所得を計算し、翌年の2月16日から3月15日の間に確定申告を行う必要があります。

ミミレイドン

事業所得については、こちらの記事で解説しておりますので、宜しければご覧ください。
【町田市の税理士が解説】個人の事業所得の基礎知識について

2.製造業編(菓子・食品製造業)の収入

事業所得の総収入金額には、単なる商品の売上だけでなく、事業に関連して発生する様々な経済的利益が含まれます。具体的にどのようなものが収入になるのか、以下の項目に詳しく解説します。

(1).主要な営業売上(製品・商品の販売)

店舗での直接販売や、取引先への納品による収入が中心となります。

  • 店舗での売上(現金・キャッシュレス)
    店頭で菓子や食品を販売して得た代金です。クレジットカードやバーコード決済などの売上は、入金日ではなく、「サービスを提供した日(顧客が利用した日)」に計上する必要があります。
  • 納品・卸売りによる売上(掛け売上)
    飲食店、スーパー、学校などに製品を卸している場合の収入です。これらは「売掛金」として管理され、代金の支払いを未だ受けていなくても、製品を引き渡した時点で収入金額に含める必要があります
  • 外商・訪問販売
    店舗以外での移動販売やイベント出店、注文による配達などの売上も含まれます。
新屋賢人

キャッシュレス決済でも、売上は入金日基準ではなく、原則として「収入すべき権利が確定した日」に計上します。例えば物品販売なら引渡し(出荷・納品等)により売上が確定した日、役務提供なら提供を完了した日が基準となります。

(2).家事消費(自家消費)

個人経営の菓子店や食品工場において、「売れ残りのパンや菓子を食べた」「店の食材を使って家族の食事を作った」という場合、その価額を売上として計上しなければなりません

  • 計上すべき金額
    原則として「定価(通常の販売価額)」ですが、特例として「仕入価格」または「通常販売価額のおおむね70%」のいずれか高い方の金額で計上することも認められています。
  • 贈与・低額譲渡
    友人へ製品をプレゼントしたり(贈与)親しい人に極端に安い価格で売ったり(低額譲渡)した場合も、自家消費と同様の処理が必要になります。
新屋賢人

計上すべき金額について、分かりにくいので言い換えると、家事消費の金額は原則「通常の販売価額」ですが、取得価額以上の金額で帳簿に所定の記載を行い、かつ通常の販売価額に比して著しく低額(おおむね70%未満)でない限り、帳簿計上額で差し支えない取扱いがあります。

ミミレイドン

極端に安い価格っていくらくらいですか?

新屋賢人

こちらも通常の販売価額のおおむね70%未満で販売した場合には、極端に安いと捉えられる可能性があります。
もっとも、型崩れ等による通常の値引販売や広告宣伝の一環としての提供など、実態により取扱いが異なるため、根拠(値引理由・記録)を残すことが重要です。

参照:法第39条《たな卸資産等の自家消費の場合の総収入金額算入》関係

(3).雑収入(事業に伴う付随的な収入)

製造工程や店舗運営に関連して発生する以下のような項目も、総収入金額に含まれます。

  • 作業くず・廃品売却代金
    製造過程で出た金属くずや作業くず、空箱、空き瓶などを専門業者に売却して得た代金です。
  • 自動販売機の販売手数料
    店舗や工場内に設置した飲料などの自動販売機から、設置メーカー等を通じて受け取る手数料です。
  • 仕入割引・リベート
    原材料の仕入先から受け取る割引や、取引量に応じて支払われるリベート収入です。
  • メーカー等からの協賛金・専属契約料
    酒類メーカーや飲料メーカー等から、製品の取り扱いを条件に受け取る協力金や契約金などです。
  • 従業員から徴収する「まかない代」
    従業員から食事代として徴収した現金は、事業の収入(雑収入等)として計上します。
  • 助成金・給付金
    事業に関連して国や地方公共団体から受け取った給付金や協力金などです。

(4).計上時の注意点

  • 手数料の扱い
    キャッシュレス決済などで手数料が差し引かれて入金される場合でも、収入には手数料を引く前の「総額」を計上し、手数料分は「支払手数料」などの経費として処理します。
  • 事業所得に含まれないもの
    預貯金の利息:個人の銀行口座につく利息は原則として「利子所得」となり、事業所得の収入には含めません。
    固定資産の売却益:事業用車両や製造機械の売却による利益は、原則として「譲渡所得」になります(原則は譲渡所得ですが、作業くずの売却のような恒常的・反復的なものは事業所得(雑収入)として扱います)。
新屋賢人

事業で使用していた固定資産の譲渡は原則として譲渡所得となりますが、使用可能期間が1年未満の減価償却資産、取得価額10万円未満の減価償却資産、取得価額20万円未満で一括償却資産の適用を受けたものなどは、譲渡所得ではなく事業所得(又は雑所得)となる場合があります。
正確な収入を把握するためには、日々のレジの記録や納品書、通帳の入金履歴などを照合し、自家消費や雑収入の計上漏れがないよう注意することが、税務調査対策としても重要です。

参照:国税庁タックスアンサー No.3105 譲渡所得の対象となる資産と課税方法

3.製造業編(菓子・食品製造業)の製造原価や売上原価(仕入)と棚卸

菓子・食品製造業における製造原価や売上原価の管理は、単に仕入れて売る小売業とは異なり、原材料を加工して製品(お菓子やパンなど)を作るプロセスが含まれるため、特有の会計・税務処理が必要となります。

以下に、計算方法、棚卸、税務上の注意点、および実務上のポイントを詳しく説明します。

(1).製造原価と売上原価の構造

製造業では、「当期に作ったものの原価(製造原価)」と「当期に売れたものの原価(売上原価)」を分けて計算します。

製造費用の三要素

製品を作るためにかかった費用は、以下の3つに分類されます。

材料費(原材料費)
  • 主原料
    小麦粉、砂糖、生クリーム、バター、牛乳、卵、フルーツなど、菓子づくりの本体となる食材です。
  • 添加物・副資材
    食品添加物、イースト、塩、油類などのほか、製品に直接取り付ける飾りなども含まれます。
  • 個包装・資材費
    ケーキに巻く帯、トレー、シール、リボン、個包装用の箱や袋など、製品を販売できる状態にするための最低限の包装資材です。
労務費
  • 製造現場の賃金
    工場で菓子やパンの製造に直接従事する従業員、アルバイト、パートに支払う給与や手当です。
  • 法定福利費
    従業員の健康保険や雇用保険の事業主負担分も、製造に従事する人の分は製造原価に含まれます。
製造経費
  • 水道光熱費
    オーブンでの焼成や冷蔵・冷凍保管、器具の洗浄などで消費する電気、ガス、水道代です。
  • 外注加工費
    製品の一部工程(製あんやカットなど)を外部に委託した場合の費用です。
  • 減価償却費
    オーブン、ミキサー、ショックフリーザーなどの厨房機器や、工場建物の取得費用を耐用年数に応じて分割計上する費用です。
  • 修繕費
    製造機械のメンテナンスや故障した際の修理費用です。

計算式

  • 当期製品製造原価期首仕掛品棚卸高当期製造費用(材料費+労務費+経費)期末仕掛品棚卸高
  • 売上原価期首製品棚卸高当期製品製造原価期末製品棚卸高

(2).棚卸資産(在庫)の管理と会計処理

期末(12月31日)には、正確な利益を算出するために「棚卸」を行い、残っている資産を以下の3つに区分して計上しなければなりません。

  • 原材料
    まだ加工していない未使用の食材や資材。
  • 仕掛品(しかかりひん)
    製造途中の未完成品(例:作り置きの生地、仕上げ前の菓子など)。これには、そこまでに投入された材料費だけでなく、加工に要した人件費等も含まれるため、資産として適切に評価する必要があります。
  • 製品
    完成しているがまだ売れていない菓子・パン。
新屋賢人

実務上のポイントとして、評価方法は、届出がない場合は「最終仕入原価法」(期末に最も近い仕入単価で計算)が適用されます。
また、開封済みの調味料や酒類なども残量を把握するのが原則ですが、金額が僅少なものは実務上、重要性に応じて判断します。
なお、「棚卸表」を作成し、数量と単価の根拠を明確にして7年間保存する義務がありますので、注意しましょう。

(3).税務上の特殊な処理と注意点

先ほども触れましたが、菓子・食品製造業において、最も注意すべきポイントです。

自家消費(家事消費)の売上計上

経営者や家族が店の製品を食べたり、仕入れた食材を自宅で使った場合、それを売上として計上しなければなりません。計上額としては、原則は定価ですが、特例として「仕入価格」または「通常販売価額の70%」のいずれか高い方の金額で計上することが認められています。

「まかない」の取り扱い

従業員に提供する食事を福利厚生費とするには、以下の2条件を両方満たす必要があります。満たさない場合は「現物給与」として所得税の源泉徴収対象となります。

  1. 従業員が材料費などの原価の半分以上を負担していること。
  2. 店側の負担額が月額3,500円以下であること。
新屋賢人

賞味期限切れ等で廃棄した食材は経費(商品廃棄損など)にできますが、税務調査対策として、廃棄した事実を裏付ける社内記録や廃棄報告書などを残しておくことが推奨されます。

(4).利益改善に向けた実務上のポイント

  • 適切な値付け
    原価率の目安は製造原価(総コスト)で売上の40~50%程度ですが、原材料費の積み上げだけでなく、経営者としての視点を持って「10円でも高く売れるか」を検討し、適切な原価率になるよう価格を設定することが重要です。
  • 主要原材料の仕入れ見直し
    使用量が多い生クリーム、バター、小麦粉などは、仕入先を一本化して見積もりを比較することで、仕入れ単価を下げ、大きな利益改善につなげることが可能です。
  • 商品構成の絞り込み
    アイテム数が多すぎると製造効率が落ち、原材料のロス(廃棄)も増えます。主力商品に集中し、ロスを減らすことが原価率の低減に直結します。
新屋賢人

確定申告(青色申告)の際は、これらをまとめた「製造原価報告書」(青色申告決算書の4枚目)を作成し、提出する必要があります。

4.製造業編(菓子・食品製造業)の経費

製造業(菓子・食品製造業)における経費は、先ほど解説した大きく分けて製品を製造するために直接・間接にかかった「製造原価」と、販売や管理のために生じた「販売費及び一般管理費」に分類されます。この章では「販売費及び一般管理費」について、見ていきます。

(1).販売費及び一般管理費

製品を販売するための活動や、店舗・事業全体の維持管理にかかる費用です。

店舗・事務所の費用

  • 地代家賃
    店舗や工場の賃料、駐車場の料金などです。
  • 租税公課
    店舗の固定資産税、自動車税、収入印紙代、商工会などの会費です。

物流・広告宣伝費

  • 荷造運賃
    配送用の段ボールや緩衝材、宅配便の送料など、客先に届けるための費用です。
  • 広告宣伝費
    チラシ、ショップカード、SNS広告、ホームページ制作・運営費、グルメサイト掲載料などが該当します。

通信・交通・事務費

  • 通信費
    店舗の固定電話、インターネット料金、切手代、携帯電話代です。
  • 旅費交通費
    材料の仕入れや出店・打ち合わせのための移動費(電車、バス、高速代、宿泊費)です。
  • 消耗品費
    10万円未満の什器、事務用品、文房具、トイレットペーパー、清掃用具など、短期間で消滅する物品です。

その他:

  • 接待交際費
    取引先との打ち合わせ飲食代や贈答品、手土産代です。
  • 支払報酬料
    税理士や弁護士への顧問料や確定申告依頼費用です。

(2).特有の経費処理と注意点

  • 家事按分
    自宅の一部を工房や店舗にしている場合、面積や使用時間などの合理的な基準で按分し、事業使用分のみを「地代家賃」や「水道光熱費」として計上できます。
  • まかない費
    従業員に提供する「まかない」を福利厚生費とするには、「従業員が材料費の半分以上を負担」かつ「店側の負担額が月3,500円以下」という要件を満たす必要があります。
  • 棚卸(在庫管理)
    年末に未使用の材料や、製造途中の「仕掛品」、完成して売れ残った「製品」がある場合、それらを棚卸資産として経費から除外しなければなりません。
  • 商品廃棄損
    賞味期限切れや製造ミスで廃棄した食材は、帳簿上で「商品廃棄損」として処理することで、税務上の損金に計上できます。
  • 自家消費(家事消費)
    自分で店の菓子を食べたり食材を自宅で使った場合は、経費ではなく売上に計上する必要があります。
新屋賢人

菓子・食品製造業では特に材料費や光熱費の割合が高くなる傾向にあり、適切な勘定科目に振り分けて記録することが、正確な利益把握と節税につながります。

5.確定申告の際の製造業編(菓子・食品製造業)ならではの注意点

製造業(菓子・食品製造業)の確定申告において、他業種と異なる大きな特徴は、「製造原価」の計算が必要になる点です。単に仕入れて売る小売業とは異なり、原材料を加工して製品を作る工程が含まれるため、在庫管理や経費の分類が複雑になります

以下に、製造業ならではの注意点と特殊な書類について詳しく解説します。既に解説した論点も含まれております。

(1).製造業ならではの確定申告の注意点

厳密な棚卸資産(在庫)の管理

製造業では、期末(12月31日)時点で保有している在庫を以下の3つに区分して管理する必要があります。

  • 原材料
    まだ加工していない小麦粉、砂糖、バターなどの材料。
  • 仕掛品(しかかりひん)
    製造途中の未完成品(作りかけの生地など)。
  • 製品
    完成しているがまだ売れていないお菓子やパン。 特に「仕掛品」は、まだ売上が立っていなくても、そこにかかった材料費や労務費(人件費)を当期の経費にすることはできず、資産として計上しなければならないため、注意が必要です。

家事消費(自家消費)の売上計上

自分や家族が、お店の製品(売れ残りのパンや菓子など)を食べた場合、それを売上として計上する義務があります。

  • 計上金額
    原則は定価ですが、特例として「仕入価格」または「通常販売価額の70%」のいずれか高い方の金額で計上することが認められています。

「まかない」の取り扱い

従業員に提供する食事(まかない)を「福利厚生費」とするには、以下の条件を両方満たす必要があります。

  • 従業員が食事価額(材料費等の原価)の半分以上を負担していること。
  • 店側の負担額が1か月あたり1人3,500円以下であること。
新屋賢人

繰り返しになりますが、これらを満たさない場合は、従業員への「現物給与」として課税対象(所得税の源泉徴収が必要)になります。

雑収入の計上漏れ

製造工程で出た銅やアルミなどの「作業くず(金属くず)」の売却代金や、店内に設置した自動販売機の販売手数料などは、事業の「雑収入」として計上しなければなりません。これらは税務調査でチェックされやすいポイントです。

(2).製造業特有の添付書類と保存書類

製造業を営む場合、確定申告書とともに以下の書類を準備・提出する必要があります。

製造原価報告書(青色申告決算書の4枚目)

青色申告の場合、決算書の4枚目にある「製造原価の計算」欄を記入する必要があります。 ここでは、期首・期末の原材料・仕掛品のたな卸高や、当期の材料費、労務費(製造担当者の給与)、外注工賃、製造経費(工場の水道光熱費や機械の減価償却費)を細かく計算します。この最終値である「製品製造原価」が、損益計算書の「仕入金額」の欄に反映されます。

棚卸表(保存義務:7年間)

確定申告時に税務署へ提出する義務はありませんが、期末在庫の計算根拠として「棚卸表」を作成し、7年間保存しておかなければなりません。税務調査の際には、在庫の数量や単価、計算根拠を説明するために必ず求められます。

家事按分の根拠資料

自宅兼工房などで、家賃や光熱費を事業用とプライベートに分けている場合、その按分比率(面積や使用時間など)の根拠となる間取り図や計算メモを保管しておくことが推奨されます。

(3).設備投資に関する注意点

機械や器具の減価償却

10万円以上のオーブンや冷蔵庫などは、購入した年に全額経費にはできず、法定耐用年数(資産の種類により異なりますが、菓子・食品製造業用の設備は一般的に8~10年前後)に応じて分割して計上します。 ただし、青色申告者の特例として、30万円未満の資産については、年間合計300万円までなら取得した年に一括で経費にできる「少額減価償却資産の特例」が活用できます。

新屋賢人

正確な申告を行うためには、日々の売上や材料の仕入れだけでなく、「今、店に何がどれだけ残っているか(在庫)」や「自分たちが何を食べたか(自家消費)」を都度記録しておくことが、製造業における確定申告の鍵となります。

参照:主な減価償却資産の耐用年数表
参照:減価償却資産の耐用年数表

6.製造業編(菓子・食品製造業)が税務調査で指摘されるポイント

製造業(菓子・食品製造業)は、現金売上の多さや材料仕入れの複雑さから、税務署から「不正発見割合が高い業種」としてマークされやすい傾向にあります。税務調査では、主に「売上の過少申告」と「経費の水増し」の2点が重点的に調査されます。

以下に、菓子・食品製造業が税務調査で指摘されやすいポイントを網羅的に解説します。

(1).売上(収入)に関する指摘ポイント

現金管理の不備や、計上時期の誤りが厳しくチェックされます。

  • 現金残高と帳簿の不一致
    毎日の営業終了時に、レジ内の現金と現金出納帳の残高が一致しているかが最も重要です。差異が大きいと売上除外(中抜き)を疑われます。
  • キャッシュレス決済の計上時期
    クレジットカードや電子マネー、PayPayなどの売上は、入金日ではなく、お客様が利用した「サービス提供日」に計上しなければなりません。
  • 自家消費(家事消費)の未計上
    店の商品や仕入れた食材を経営者自身や家族が食べた場合、売上に計上する義務があります。計上額は原則として定価ですが、特例として「仕入価格」または「通常販売価額の70%」のいずれか高い方の金額で計上することも認められています。
  • 雑収入の計上漏れ
    空き瓶・空き箱の売却代金、仕入割引(リベート)、自動販売機の販売手数料、メーカーからの協賛金や専属契約料、助成金なども収入として計上する必要があります。
  • 店舗外売上の計上漏れ
    学校や飲食店、スーパーなどへの納品がある場合、締め日後の売上が漏れなく計上されているか、外商の売上がレジを通さず脱漏していないかが確認されます。

(2).売上原価・棚卸資産に関する指摘ポイント

仕入れと売上のバランスや、期末の在庫管理が精査されます。

  • 棚卸資産(在庫)の計上不備
    12月31日時点の未使用の食材や飲料の在庫を正しく数えていない場合、不当に利益を下げていると判断されます。
  • 仕掛品(しかかりひん)の計上漏れ
    期末時点で製造途中の製品は「仕掛品」として資産計上しなければなりません。これにかかった材料費や人件費を経費として先行計上してしまうと、所得を圧縮しているとみなされます。
  • 不自然な原価率
    仕入れた食材の量に対して売上が極端に少ないと、売上除外や在庫の過少申告を疑われます。
  • 外注加工費の時期的なズレ
    製品の加工を外部に委託している場合、期末在庫分に対応する外注費は、当期の経費ではなく期末棚卸高に含める必要があります。
  • 廃棄損・評価損の妥当性
    賞味期限切れ等で廃棄した食材を計上する場合、廃棄の事実を裏付ける写真や廃棄証明書、社内記録などの証拠がなければ損金として認められない可能性があります。

(3).必要経費に関する指摘ポイント

公私混同や、従業員への現物給与が焦点となります。

  • 「まかない」の給与課税
    従業員への食事提供を無償で行うと「現物給与」として課税対象になります。非課税(福利厚生費)とするには、「従業員が材料費の半分以上を負担」かつ「店側の負担額が月3,500円以下」という要件を満たす必要があります。
  • 不適切な家事按分
    自宅兼店舗の場合、家賃や光熱費のうち事業で使用している割合が合理的か、間取り図などの根拠資料があるかを確認されます。
  • 不透明な接待交際費・福利厚生費
    個人的な飲食代を経費に入れていないか、相手先や目的が記録されているかがチェックされます。特にパン・菓子店では交際費として認められる範囲が非常に狭いのが一般的です。
  • 架空人件費・専従者給与
    実際に働いていない家族や知人の名前を借りて給与を計上していないか、また家族への給与(専従者給与)が仕事内容に対して高額すぎないかが精査されます。
ミミレイドン

(4).工場・固定資産に関する指摘ポイント

製造設備を保有する製造業特有のポイントです。

  • 工場の実地調査
    向上や倉庫が別にある場合、税務調査官が事務所だけでなく工場や倉庫に足を運ぶことがあります。原材料や梱包資材が帳簿上の数値と合っているか、未計上の金属くず等が発生していないか、自動販売機が設置されていないかなどを直接確認するためです。
  • 修繕費と資本的支出の区別
    製造機械や工場の修繕費のうち、資産の価値を高めたり使用期間を延長させたりする支出は「資本的支出」として減価償却が必要であり、一括で経費(修繕費)にすることはできません。
  • 固定資産の取得価額
    機械の搬入費、据付費、試運転費用などは、経費ではなく取得価額に含めて減価償却しなければなりません。

(5).書類管理とインボイス制度

  • 証憑(しょうひょう)の保存不備
    レジペーパー、領収書、仕入伝票、棚卸表などは原則7年間の保存義務があります。
  • インボイス対応
    適格請求書(インボイス)の要件を満たした領収書を発行しているか、仕入先が免税事業者の場合の仕入税額控除を正しく計算しているかも今後の調査では重要になります。
新屋賢人

指摘を受けた場合、本来の税金に加えて過少申告加算税(10〜15%)や重加算税(35〜40%)、さらに延滞税などの重いペナルティが科せられる可能性があります。日頃から正確な記帳と証拠書類の保管を徹底することが重要です。

7.まとめ:正確な確定申告は、健全な店舗経営への第一歩

菓子・食品製造業の確定申告は、単に「売上から経費を引く」だけではなく、原材料から製品へと姿を変える工程を数値化する「製造原価報告書」の作成が必要となるため、他業種に比べても非常に手間がかかります。

しかし、今回解説した以下のポイントを日々意識することで、税務リスクを抑えるだけでなく、お店の利益率を劇的に改善するヒントが見えてきます。

  • 厳密な在庫管理と棚卸し
    期末には原材料だけでなく、作りかけの「仕掛品」や完成した「製品」を正しく数え、資産として計上しましょう。
  • 自家消費・まかないの適切な処理
    自分たちが食べた分を売上に計上すること(通常販売価額の7割以上など)や、従業員へのまかないが給与として課税されないための要件(月3,500円以下など)を守ることは、税務調査での指摘を避けるための必須事項です。
  • 青色申告の特典を使い倒す
    最大65万円の控除や、家族への給与を経費にできる制度、30万円未満の設備を一括で経費にできる特例など、青色申告には大きな節税メリットがあります。
  • 原価計算を経営の武器にする
    日々の帳簿付けは単なる義務ではなく、正しい原価率を把握し、それに基づいた適切な「値付け」を行うための重要なデータとなります。
新屋賢人

確定申告は1年間の頑張りを整理する大切な機会です。正確な申告を行い、大切なお店をより長く、より豊かに続けていくための強固な土台を築いていきましょう。
もし、具体的な仕分けや按分方法で迷うことがあれば、早めに税理士へ相談することをお勧めします。税理士をお探しの方は、お気軽にこちらまでお問い合わせください。

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この記事を書いた人

町田市にあるコムレイド税理士事務所の代表税理士の新屋賢人です。大学卒業後、中堅税理士法人で5年間、業界最大手である国際四大会計事務所(BIG4)のEY税理士法人で8年間、計13年間の実務経験があります。
30代ですが、すでに法人・個人問わず幅広い業務を経験しております。BIG4という業界最大手で得た経験・知識を生まれ育った街に還元したいという強い思いから独立を決めました。

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