ミミレイドンボス、先日解説いただいた生前贈与の内容を基に、家族で相続について、話し合おうと思います。よく、インターネットやテレビドラマで「争族(争いの相続)」になる話しを聞いたりしますが、あれは一部の元々家族仲が悪いか、財産がとても多い家族を想定しているものですよね?



どんなに仲の良いご家族でも、遺産をめぐる話し合いが「争族(争いの相続)」へと発展してしまうケースは後を絶ちません。
「うちは財産が少ないから大丈夫」「家族仲が良いから必要ない」などと思っている方ほど、遺言書がないことで、後に残されたご家族が深刻なトラブルや煩雑な手続きに巻き込まれるリスクを抱えています。



遺言書、、、大富豪が用意しておくものだと思ってましたが、一般家庭でも必要なのでしょうか?



遺言書は、誰にでも起こりうる「もしも」に備えるための大切な手段です。
①家族に迷惑をかけないために
②財産の分配を明確にするために
③自分の意思をきちんと残すために
遺言書があるだけで、相続トラブルの多くは未然に防ぐことができます。今朝は遺言書の基礎について、解説しましょう。
1. はじめに
(1).遺言書とは何か?遺書との違い
遺言書とは、ご自身の財産の分け方や伝えたいメッセージを、法的効力を持つ「最終意思」として書き残すものです。
遺言書は法律で定められた厳格な形式(民法上の要件)に従って作成されなければ、その効力が認められません。
一方、「遺書」や「エンディングノート」は、故人の気持ちや願い、葬儀の希望などを自由に記した手紙のようなもので、法的拘束力はありません。遺言書の中に、家族への感謝や遺産分配の理由などを書き添える「付言事項(ふげんじこう)」という形で、法的な指示ではないメッセージを残すことは可能です。
遺言書を作成する最大の目的は、法的な指示を通じて財産分配を確定させることにあります。
(2).なぜ今、遺言書が注目されているのか(相続トラブルの増加、認知症リスクなど)
近年、遺言書の準備が注目されている背景には、主に以下の2つの大きな社会的なリスクがあります。
1. 相続トラブル(争族)の増加
遺産をめぐる話し合いは、小さな財産であっても、分け方次第で思わぬ不公平感や争いが生じやすいものです。特に、家族関係が複雑な方(再婚家庭など)や、法定相続人以外に財産を残したい方がいる場合、遺言書がないとトラブルになりやすく、その予防策として遺言書が重要視されています。
2. 認知症発症リスクへの備え
人生の後半期において認知症を発症し、遺言能力(遺言内容を理解し、その結果を弁識できる能力)を失ってしまうと、法的に有効な遺言書を作成できなくなってしまいます。元気なうちに遺言書を作成しておくことは、ご自身の意思を未来に託すための最も基本的な生前対策です。
2. 遺言書の法的効力と役割
遺言書は、ただ財産を分けるだけでなく、ご自身の意思に基づき、法的に様々な役割を果たします。法的に効力を持つ遺言事項は法律で定められています。
(1).相続人の指定
遺言書により、誰にどの財産を相続させるかを明確に指定することができます。これは、民法で定められた法定相続分よりも優先されます。
(2).財産の分割方法の明示
遺言書によって遺産の分け方をすべて指定しておけば、相続人たちが遺産分割協議を行う手間を省き、無用な争いを避けることができます。例えば、「長男のAには、財産の3分の2を相続させる」といった具体的な指定が可能です。
(3).遺贈・寄付・負担付遺贈などの指示
遺言書があれば、法定相続人ではない人(内縁のパートナーや、世話になった友人など)に財産を譲る「遺贈」や、慈善団体、自治体への「寄付」も可能になります。遺言書がない場合、相続人以外へ財産を渡すには、原則として相続人全員の同意が必要となり、手続きが煩雑になります。
(4).遺言執行者の指定とその役割
遺言執行者とは、遺言書に書かれた内容を確実に実行する責任者です。
遺言執行者を指定しておくことで、銀行口座の解約手続きや不動産の名義変更(相続登記)など、遺言の執行に必要な手続きを単独で、かつスムーズに進めることができます。相続人が多い場合や手続きが複雑になる場合に、執行者がいることで、残された家族の負担を大幅に軽減できます。遺言執行者は、未成年者や破産者を除き、誰でも指定可能です。
3. 遺言書の種類と特徴(民法で認められる3形式のメリット・デメリット)
遺言書には、主に「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3つの普通方式があります。法律上の効力に優劣はありませんが、安全性、費用、手軽さに違いがあります。
| 方式 | 費用 | 法的安全性・確実性 | 検認手続き | 秘密性 |
| 自筆証書遺言(自宅保管) | ◎(無料) | △(形式不備/紛失リスク高) | 必要 | ◎(内容・存在を秘密にできる) |
| 自筆証書遺言(法務局保管) | 〇(3,900円) | 〇(紛失/改ざんリスク低減) | 不要 | 〇(内容を誰にも知られずに済む) |
| 公正証書遺言 | △(数万円〜) | ◎(公証人関与で確実) | 不要 | △(公証人・証人に内容を知られる) |
| 秘密証書遺言 | △(約1.1万円+謝礼) | △(内容確認なしで無効リスク) | 必要 | ◎(内容を秘密にできる) |



種類が多くて比較検討が大変という方は、自筆証書遺言と公正証書遺言のいずれかで検討されてはいかがでしょうか。一般的には、この2種類で迷われる方が多い印象です。専門家の立場としては、費用はかかりますが、法的安全性の高い公正証書遺言をお勧めしております。
(1).自筆証書遺言
遺言者が全文を自分で手書きする方式です。紙とペンがあれば作成でき、最も手軽です。
メリット
- いつでも作成・変更が可能で、費用がほとんどかかりません。
- 内容を誰にも見られずに済みます。
デメリット
- 法的な形式(全文自書、日付、氏名、押印)を守らないと無効になりやすい。
- 紛失、改ざん、未発見のリスクがあります。
- 自宅保管の場合、家庭裁判所での検認手続きが必要で、時間がかかります。
(2).公正証書遺言
公証役場で、公証人という法律の専門家が遺言者の口述に基づいて文書を作成します。遺言者、公証人、証人2名が署名押印します。
メリット
- 公証人が関与するため、法的に有効な形式で作成され、無効になる心配がほぼありません。
- 原本が公証役場に厳重に保管されるため、紛失や改ざんの心配がなく、再発行も可能です。
- 家庭裁判所の検認が不要で、相続発生後すぐに執行可能です。
- 高齢や病気で筆記が困難な場合でも、口述で作成可能です。
デメリット
- 遺産額に応じた費用(公証人手数料)がかかります。
- 証人2名の立会いが必要で、証人には相続人やその配偶者・直系血族はなれません。
- 作成時に公証人や証人に内容を知られます。
(3).秘密証書遺言
遺言者自身が作成した遺言書を封印し、公証人と証人2名の前で、「この封書が存在する」という事実のみを証明してもらう方式です。内容は秘密にできますが、実務上は利用が非常に少ない方式です。
メリット
- 内容を誰にも見せずに作成できます。
- 本文は自筆でなくても、パソコンや代筆でも作成可能で、署名と押印があれば成立します。
デメリット
- 公証人は内容をチェックしないため、方式不備や内容不備で無効になるリスクがあります。
- 作成手続きに費用(約11,000円)と、証人2名の立会いが必要です。
- 遺言者自身が保管するため、紛失や未発見のリスクがあります。
- 公正証書遺言と異なり、家庭裁判所の検認が必要です。



一般的に、秘密証書遺言を選択されるケースは稀です。
4. 自筆証書遺言の保管制度(法務局)
自筆証書遺言のデメリットを解消するために、2020年7月から法務局による「自筆証書遺言書保管制度」が開始されました。
• 制度の概要
遺言者が自筆で書いた遺言書の原本を、生前に法務局(遺言書保管所)に預けて安全に保管してもらう制度です。保管を申請できるのは、遺言者本人に限り、代理申請はできません。
• 最大のメリット
- 紛失・改ざんの心配がほぼなくなる
国家機関である法務局が厳重に保管し、紛失や盗難、特定の相続人による隠匿を防ぎます。 - 家庭裁判所の検認が不要
法務局に保管された遺言書は、検認手続きを経ずに直接相続手続きに使えます。これにより相続手続きが迅速化します。 - 遺言の存在が通知される
遺言者の死亡後、生前に指定した最大3名の相続人等に、遺言書が保管されている旨が法務局から通知されます。
• 費用と手続き
保管申請にかかる手数料は、収入印紙で3,900円と比較的安価です。手続きは、事前に法務局に予約し、遺言書原本、本人確認書類、住民票、収入印紙などを持って本人が出向く必要があります。
• 注意点
法務局で確認されるのは、形式的な要件(全文自書、日付、署名、押印など)のみで、遺言書の内容そのものが法的に問題ないかまでは審査してくれません。内容の確実性を求める場合は、専門家に相談することが推奨されます。



この制度が開始したことにより、自筆証書遺言のデメリットをある程度カバーできるようになりましたが、一番重要となる遺言書の内容が法的に問題ないかまでは審査してくれませんので、やはり、専門家の立場としては、公正証書遺言をお勧めしております。
5. 遺言書がない場合のリスク
遺言書がない場合、残されたご家族は、故人の意思とは異なる結果になったり、手続きが複雑化したりする多くのリスクに直面します。
(1).法定相続によるトラブル事例
遺言書がない場合、原則として民法で定められた法定相続人が、法定相続分に従って財産を相続することになります。
しかし、遺産分割が必要な財産(不動産、銀行預金、有価証券など)は、相続人全員で遺産分割協議を行い、分け方を決めなければ単独で処分できません。
協議の過程では、特定の相続人による「寄与分」(被相続人の財産維持や増加への貢献)の主張や、一部の相続人がすでに受け取った「特別受益」(生前の結婚資金や住宅購入資金の贈与など)の有無を巡って、相続人同士が対立し、トラブルに発展しやすくなります。
(2).家族間の争い・不動産の共有化
遺言書がないことによる最大のリスクの一つが、家族間の争い(争族)です。
特に、不動産のように細かく分けられない財産がある場合、誰が相続するか、売却するか、あるいは金銭で補填するか(代償分割)などで意見がまとまらず、協議が長期化します。
また、話し合いがつかないまま、便宜的に不動産を相続人全員の共有名義にしてしまうと、将来その不動産を売却したり活用したりする際に、共有者全員の同意が必要となり、後の世代まで問題を引き継いでしまうことになります。
(3).認知症発症後の遺言作成不可リスク
遺言書を作成するには、遺言者が遺言能力(意思能力)を有していることが絶対条件です。
もし認知症が発症し、遺言能力が失われてしまうと、その後に遺言書を作成しても無効になる可能性があります。公正証書遺言で作成した場合でも、遺言時に認知症であったことを理由に遺言の無効を争われるケースは非常に多いです。



いつ、だれが認知症になるかは、医者でも想定できません。したがって、早めの対策をしておくことが重要となります。
6. 遺言書作成のポイントと注意点
遺言書は、法的効力を持たせるために、形式的な要件を厳格に守る必要があります。
(1).書き方の基本(日付・署名・押印)
自筆証書遺言を有効にするには、以下の要件を必ず満たさなければなりません。
- 全文の自書
遺言書の本文を全て遺言者自身が手書きする必要があります。パソコンや代筆は原則無効です。 - 日付の自書
日付は「令和○年○月○日」のように特定できる形で自書する必要があります。「○月吉日」といった曖昧な表記は無効になります。 - 氏名の自書と押印
遺言者本人の氏名を自書し、必ず押印しなければなりません。認印でも有効ですが、実印の使用が推奨されます。
(2).財産目録の添付方法
2019年の法改正により、自筆証書遺言でも作成の負担が大幅に軽減されました。
- 財産目録(財産の一覧ページ)については、手書きでなくても有効です。
- パソコン等で作成した財産目録や、預金通帳のコピー、不動産の登記事項証明書などを添付資料として使用できます。
- ただし、この目録の毎葉(ページごと)に、遺言者の署名と押印が必要です。
(3).誤解を招かない文言の選び方
遺言書は、法的に明確な文言を使うことが重要です。曖昧な表現は解釈の違いを生み、トラブルの原因となります。
- 「相続させる」と「遺贈する」の使い分け
法定相続人に対しては「相続させる」と記載するのが一般的です。
法定相続人以外の人(内縁の妻、孫、寄付先など)に対しては「遺贈する」と記載します。 - 財産の特定
財産は具体的に記載しなければなりません。例えば預金であれば「銀行名、支店名、口座種別、口座番号」を、不動産であれば「登記簿謄本と一致した表記」を記載することが推奨されます。 - 付言事項の活用
遺言書の最後に付言事項として、財産分配の理由や家族への感謝の気持ちを書き添えることを強く推奨します。付言事項に法的効力はありませんが、これにより相続人の心理的な納得感が高まり、争族を未然に防ぐ「心の橋渡し」として大きな役割を果たします。
(4).訂正・変更のルール
遺言書は、何度でも書き直すことが可能です。
- 最新の日付が優先される
複数の遺言書が発見された場合、最も日付の新しいものが優先的に有効となります。 - 自筆証書遺言の変更・撤回
新しい遺言書を作成すれば、古い遺言書の内容と矛盾する部分は撤回されます。古い遺言書を破棄することでも撤回が可能です。 - 公正証書遺言の変更
公正証書遺言を変更する場合、再度公証役場に出向いて、最初と同じ手順で新しい公正証書遺言を作成する必要があります。 - 自筆証書遺言の訂正
自筆証書遺言の本文を訂正する場合、民法で定められた厳格な方法(変更箇所を明示し、署名・押印するなど)で訂正しなければ、その訂正はなかったものとみなされます。手間や誤りのリスクを考えると、新しく作成し直すほうが確実です。
7. よくある質問と誤解
(1).うちには財産がないから不要?
これは大きな誤解です。遺言書の必要性は財産の多寡では決まりません。
たとえ財産が少なくても、分け方次第で思わぬ不公平感や手続きの負担が増えることがあります。また、不動産などの分割しにくい財産が一つでもあれば、その分割方法を巡って争いになりやすいです。財産が少ない場合でも、残された家族がスムーズに手続きを終え、争いを避けるために、遺言書は「残される家族への思いやり」として非常に有効です。
(2).エンディングノートで代用できる?
エンディングノートでは、法的に有効な遺言書の代用はできません。
エンディングノートは、葬儀の希望や連絡先、メッセージなどを残すものとしては有用ですが、財産を「誰に相続させるか」といった法律上の権利義務に関する指示は、遺言書でなければ法的な効力を持たないためです。ただし、遺言書に添える「付言事項」として、思いを伝えることは有効です。
(3).遺言書はいつでも書き直せる?
はい、遺言書はいつでも、何度でも書き直すことができます。
法律上は、最も日付の新しい遺言書が有効となります。遺言書を書き直したくなったら、新たに作成し、必ず最新の日付を記載してください。ただし、公正証書遺言の場合は、再作成に費用と手間が再びかかる点に注意が必要です
(4). 遺留分を侵害する遺言は有効ですか?
遺言書は故人の意思を最大限尊重しますが、兄弟姉妹以外の相続人には、法律で保障された最低限の遺産を受け取る権利「遺留分(いりゅうぶん)」があります。
遺留分を侵害する内容の遺言書であっても、遺言書自体は有効です。しかし、侵害された相続人は、財産を受け取った人に対して遺留分侵害額請求(金銭の支払い請求)1年間行使しないと時効で消滅するため、注意が必要です。
8. まとめと実務アドバイス
遺言書は、あなたの人生の最後の「想い」と「財産」を、最も確実な形で大切な家族に引き継ぐためのツールです。
失敗しないための実務アドバイス
- 確実性を最優先するなら「公正証書遺言」
相続財産が複雑、不動産が多い、家族間のトラブルを確実に避けたい、認知症リスクに備えたい方には、公証人が関与し、検認も不要な公正証書遺言が最も安全で確実です。作成に費用と手間はかかりますが、将来の争いを防ぐ「安心料」として、費用以上の価値があります。 - 費用と手軽さを優先するなら「自筆証書遺言+法務局保管制度」
財産が比較的シンプルで、費用を抑えたい方は、自筆証書遺言を作成し、必ず法務局の保管制度を利用しましょう。これにより、自筆証書遺言の弱点である紛失・改ざん・検認の必要性という大きなリスクを解消できます。 - 相続税対策は必須
遺言書の作成にあたり、相続税の計算を全く考慮しないと、かえって家族全体の税負担が跳ね上がり、「争族」の原因になることがあります。特に、配偶者への相続の特例(配偶者の税額軽減)や、自宅の評価減の特例(小規模宅地等の特例)は、一次相続(夫婦の一方が亡くなった時)だけでなく、二次相続(残された配偶者が亡くなった時)まで見据えた財産配分をしないと、税金が3倍以上変わることもあります。法律家が作る遺言書は税金が考慮されていないケースが多いため、法律と税務の両面から専門家のサポートを受けることが重要です。 - 作成はお早めに
遺言書は、元気で判断能力があるうちに準備しておくことが何よりも重要です。もし、遺言の内容や作成方式に少しでも不安があれば、弁護士、司法書士、税理士といった専門家へ相談することをお勧めします。



ご自身の意思を確実に未来に伝え、大切なご家族が「争族」ではなく「円満相続」を実現できるように、今すぐ行動を始めましょう。
相談できる税理士がいない場合には、お気軽にこちらまでお問い合わせください。










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