ミミレイドンボス、おはようございます!
昨日は小規模企業共済について、解説ありがとうございました。実は、小規模企業共済以外にも、よく中退共って聞くのですが、中退共って何ですか?



中小企業にとって、自社で退職金制度をゼロから構築・運用するのは、資金繰りや事務管理の面で大きな負担となります。そんな悩みを抱える中小企業のために、国が設立し、長年にわたり多くの企業に活用されてきた退職金制度が中小企業退職金共済制度(中退共)となります。
本記事では、この信頼と実績のある中退共制度について、税理士の視点からその節税効果を最大限に引き出すメリットと、導入前に必ず知っておくべき経営上のデメリット・注意点を、誰にでも分かりやすく解説します。
1. 導入:中小企業経営者の退職金制度の悩みを解決する公的制度、中小企業退職金共済(中退共)
中小企業経営者が抱える共通の悩み。それは「人材の定着」と「退職金の準備」です。
退職金制度は、従業員の安心感を高め、長期雇用を促す重要な仕組み。しかし、制度を自社で整えるには「将来の支払い原資の確保」や「運用リスクの管理」など、財務面のハードルが高く、導入に踏み切れない企業も少なくありません。
そこで注目されているのが、国が支援する公的制度「中小企業退職金共済(中退共)」です。この記事では、中退共の仕組みからメリット・注意点まで、初心者にもわかりやすく解説します。
2. 制度の概要
中退共とは?国の信頼と実績を誇る退職金制度
中退共(ちゅうたいきょう)は、中小企業退職金共済制度の略称です。これは、中小企業退職金共済法に基づき設けられた、中小企業を対象とした国の退職金制度です。
制度運営の主体と仕組み
中退共の運営は、厚生労働省が所管する独立行政法人勤労者退職金共済機構が担っています。
- 契約と掛金の納付: 会社の代表者(事業主)が契約者となり、従業員(被共済者)ごとに毎月掛金を納付します。
- 掛金の全額事業主負担: 掛金は全額事業主が負担します。従業員の給与から天引きするなど、従業員に負担させることはできません。
- 退職金の支払い: 従業員が退職となった場合、退職金は中退共から従業員本人に直接支給されます。これにより、企業側の退職金支払いの事務負担や、将来の積立不足による支払い不能リスクがなくなります。
この制度は、中小企業者の相互扶助の精神と国の援助のもとに確立され、1959年(昭和34年)に設けられて以来、中小企業の振興と発展に寄与することを目的としています。現在では、多くの企業が加入しており、信頼性と実績のある制度として広く認知されています。
掛金の設定
掛金月額は、5,000円から30,000円までの16種類から、事業主が従業員ごとに任意に選択できます。
また、パートタイマーなどの短時間労働者に対しては、特例として2,000円、3,000円、4,000円の中から選択することも可能です。
3. メリット:中退共の戦略的メリット5選
中退共の最大の魅力は、手厚い国の支援と、経営者にとっての節税効果です。
メリット1:掛金は全額「損金又は必要経費算入」(最大の節税効果!)
企業が負担した掛金は、法人企業では全額損金として、個人事業主では全額必要経費として計上できます。
つまり、支払った掛金が全額非課税となるため、企業の税負担を大幅に軽減する節税効果が得られます。これは、単に福利厚生を充実させるだけでなく、計画的な人件費管理と財務戦略として非常に有効です。



法人なら損金、個人事業主なら必要経費として全額計上可能となります。福利厚生を整えながら税負担を軽減できる、まさに一石二鳥の制度なのです!
メリット2:新規加入時・増額時に国から助成が受けられる
中退共制度には、制度開始当初の費用的な負担を軽減するための国の助成制度があります。
1. 新規加入助成
新たに加入する事業主に対して、加入後4か月目から1年間、掛金月額の2分の1(従業員ごとに上限5,000円)を国が助成します。短時間労働者の特例掛金(4,000円以下)の加入者には、さらに上乗せ助成があります。
2. 月額変更助成(増額時)
掛金月額が18,000円以下の従業員の掛金を増額する場合、増額分の3分の1を1年間国が助成します。ただし、20,000円以上の掛金からの増額は対象外です。
メリット3:企業の事務管理負担が圧倒的に少ない
退職金の管理・運用は、すべて独立行政法人勤労者退職金共済機構側が担います。
企業は、毎月、指定口座から自動で掛金が引き落とされる(口座振替)仕組みを利用できるため、煩雑な手続きが少なく、事務負担を大幅に軽減できます。従業員の入退職時の手続きも簡潔です。
また、退職金の支払いは中退共から従業員に直接行われるため、企業側は「退職金の支払い業務」から解放され、急な多額の現金支出も避けられます。
メリット4:従業員が安心して転職できる「通算制度」
現在の働き方は流動性が高まっており、転職が一般的です。中退共には、通算制度が導入されています。
中退共加入企業間で転職した場合、一定の要件を満たせば、以前の勤務先で積み立てた掛金の納付期間を引き継げるため、転職による退職金の不利益を最小限に抑えることができます。
この制度は、経験豊富な中途採用者にとって大きな魅力となり、採用競争力のある福利厚生制度を整えたい企業にとって強力なアピールポイントとなります。
メリット5:福利厚生サービスが利用できる
中退共の加入者(被共済者)となると、提携しているレジャー施設や宿泊施設の割引など、福利厚生面での各種サービスを利用できるようになります。自社でゼロから福利厚生制度を設計・運用する手間やコストをかけずに、従業員満足度を向上させることが可能です。
4. デメリット・注意点
中退共は優れた制度ですが、導入後に後悔しないために、特に財務的なリスクと制度の柔軟性に関するデメリットを深く理解しておく必要があります。
デメリット1:短期離職者への「元本割れ」リスクが高い
従業員の入れ替わりが激しい企業にとっては、中退共は大きなリスクとなり得ます。
12ヶ月未満の退職
掛金納付月数が12ヶ月未満で退職した場合、退職金は全く支給されません(掛け捨て)。企業が負担した掛金はそのまま損となります。
12ヶ月以上24ヶ月未満の退職
支給額は納付した掛金総額の約1/2~1/3に減額されてしまいます(元本割れ)。
掛金納付総額の100%を受け取れるのは24ヶ月以上、運用利息分が加算され、掛金納付額を上回るようになるのは3年7ヶ月(43ヶ月)以上経過してからです。
デメリット2:経営悪化時でも「掛金の減額」が極めて困難
中退共の掛金の減額は、企業のキャッシュフローにおいて最も注意すべき点です。
掛金額の減額は、以下のいずれかの条件を満たさなければ認められません。
1. 従業員(被共済者)の同意が得られたとき。
2. 現在の掛金月額を継続することが著しく困難であると厚生労働大臣が認めたとき(認定書が必要)。
特に従業員数が多い会社では、同意を得る手続き自体が非常に煩雑となり、同意が得られない場合は大臣の認定という厳しい条件をクリアする必要があります。このため、経営状況が悪化しても見直しが困難になる可能性があるため、加入時には将来の見通しを立てて慎重に判断することが求められます。
デメリット3:経営者・役員は原則加入できない
中退共は従業員のための制度であり、法人企業の経営者や役員、共同経営者は原則として加入することができません。(ただし、「使用人兼務役員」など、従業員としての実態が認められる場合は加入可能な場合があります。)
経営者自身の退職金準備を検討する場合は、小規模企業共済や企業型確定拠出年金(企業型DC)など、別の制度を検討する必要があります。
デメリット4:懲戒解雇者にも退職金が支払われる
一度支払った掛金は、会社ではなく従業員個人に紐づけられます。そのため、たとえ従業員が懲戒解雇により退職した場合でも、掛金に応じた退職金は中退共から直接給付されてしまいます。
給付を取り消したい場合でも、厚生労働大臣の認定を受けなければならず、仮に減額されたとしても、その減額分が会社に返還されることはありません。
デメリット5:運用利回りが低い(企業型DCとの比較で重要)
中退共の退職金は、主に「基本退職金」と「付加退職金」の合計で決まります。
• 基本退職金の予定運用利回りは、制度全体として1.0%の固定と定められています。
• 付加退職金の利率は年度ごとに変化しますが、令和6年度の利率は0.001%と、ほとんど利息がつかない状況です。
近年は運用利息がほとんどつかないため、長期間拘束された資金がインフレに対応できず、価値が下がってしまうリスクがあります。従業員自身が運用商品を選び、積極的に資産を増やすことが可能な企業型DCと比べると、退職金の額が運用成績に左右されない分、大きな成長は期待できません。
5. 加入条件
中退共制度への加入には、企業と従業員それぞれに要件が定められています。
企業の加入条件(中小企業の定義)
加入できる企業(共済契約者)は、業種ごとに定められた「資本金または出資金の額」か「常時雇用する従業員数」のいずれかの基準を満たす必要があります。
| 業種 | 資本金または出資金の上限 | 常時雇用する従業員数の上限 |
| 製造業、建設業、運輸業、その他 | 3億円以下 | 300人以下 |
| 卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
| 小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
| サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
従業員の加入条件(原則全員加入)
中退共の加入対象者(被共済者)は従業員であり、原則として全員加入が必要です。正社員だけでなく、パートタイマーやアルバイトも加入できます。
ただし、以下に該当する従業員は、加入させなくても良いとされています。
• 期間を定めて雇用される従業員
• 季節的業務の雇用される従業員
• 試用期間中の従業員
• 短時間労働者(特例掛金を利用しない場合など)
• 休職期間中の者
• 定年などで雇用関係の終了が明らかな従業員
• 被共済者になることに反対の意思を表明した従業員
加入手続きの流れ(シンプルで簡単!)
加入手続きは比較的簡素化されており、事務的なハードルは高くありません。
原則、従業員全員の同意が必要です。
従業員ごとに金額を設定します。
「退職金共済契約申込書(新規用)」と「預金口座振替依頼書」などの必要書類を記入し、最寄りの金融機関(ゆうちょ銀行等を除く)または委託事業主団体(商工会議所など)の窓口に提出します。
審査手続きが完了すると契約が成立し、掛金の支払いが開始されます。
6. まとめ
中退共は中小企業の未来を築く「戦略的な人材投資」
中小企業退職金共済制度(中退共)は、退職金制度を整備したい中小企業にとって、最も導入しやすく、かつ実効性の高い仕組みといえます。
掛金の全額損金算入という大きな税制優遇、そして新規加入時や増額時の国からの手厚い助成という二大メリットは、他の制度にはない強力な魅力です。加えて、管理・運用を機構側が担うため、企業側の事務負担も最小限に抑えられます。
しかし、その一方で、短期離職者への元本割れリスクや、経営悪化時でも掛金の減額が容易ではないという財務的な硬直性は、導入前に必ず認識しておくべき「落とし穴」です。
成功の鍵は「計画的な制度設計」
中退共をうまく活用することで、優秀な従業員の定着を促し, 企業への信頼感を醸成できます。退職金制度の導入は、従業員のモチベーション向上や人材確保、ひいては企業の生産性向上につながる戦略的な人材投資なのです。
制度導入の際は、企業の財務基盤と将来のキャッシュフローの見通しを踏まえ、無理のない掛金設定を計画的に行うことが成功の鍵となります。
もし、中退共の導入や他の退職金制度(企業型DCやはぐくみ企業年金など)との比較検討でお悩みでしたら、ぜひ税理士などの専門家にご相談ください。



中退共(中小企業退職金共済)は、メリットも多いですが、小規模企業共済と同様に、ご利用は計画的にということですね!
小規模企業共済については、こちらの記事をご覧ください。
【町田市の税理士が解説】いまさら聞けない、小規模企業共済の概要とメリットについて



労働人口の減少が進む中、中小企業にとって優秀な人材の確保はますます重要な課題となっています。
そのため、退職金制度をはじめとする福利厚生の充実は、企業の魅力を高めるうえで欠かせない要素となっており、導入を検討する経営者の方も年々増加している印象です。
ただし、中退共は一度導入すると掛金の減額が難しいため、導入前に十分な検討が必要となります。
相談できる税理士がいない場合には、お気軽にこちらまでお問い合わせください。










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