 ミミレイドン
ミミレイドンボス、おはようございます!今朝のテーマはなんでしょうか?



今朝もお問い合わせのあった内容となります。実は、2024年度(令和6年度)税制改正で、多くの大企業やそのグループ会社にとって「無視できない」大きな変化がありました。それが、法人事業税に課される「外形標準課税」の対象範囲の拡大です。この改正は令和7年(2025年)4月1日に施行し、同日以後に開始する事業年度から適用となります。



外形標準課税って、所得が出ていなくても課税されるあの外形標準課税ですか?対象範囲が拡大したってことは、知らぬ間に対象になってるなんてことも出てくるんじゃないですか?



そうなんです。これまで「資本金1億円以下だから安心」と思っていた法人も、新たに課税対象となる可能性があります。具体的には、2026年(令和8年)4月1日以後に開始する事業年度から適用となる、大企業の100%子法人等を対象とした改正には特に注意が必要です。
この記事では、この複雑な改正の内容、背景、そして貴社の実務に与える影響を、誰にでもわかりやすく解説します。ぜひ最後までお読みください。
1. はじめに
(1).外形標準課税とは何か(法人事業税の一部、所得の有無にかかわらず課税される仕組み)
私たちが住む地域社会で事業を行う際、道路や警察、消防などの行政サービスの恩恵を受けています。この行政サービスの維持費用を、事業規模に応じて公平に負担してください、というのが法人事業税の基本的な考え方です。
法人事業税は、主に以下の3つの要素で構成されています:
- 所得割:企業の所得(利益)に応じて課税される部分。
- 付加価値割:人件費や賃借料、利息など、企業が生み出した「付加価値」に応じて課税される部分。
- 資本割:資本金や資本剰余金の額など「資本の額」に応じて課税される部分。
このうち、所得以外の「外形」を基準に課税される「付加価値割」と「資本割」を総称して「外形標準課税」と呼びます。最大のポイントは、外形標準課税は所得(利益)の有無にかかわらず、赤字であっても一定の税負担が生じるという点です。



外形標準課税の対象にならなければ、所得割のみを納めることとなりますが、外形標準課税の対象となると、所得割+付加価値割+資本割を納める必要がでてきます。そのため、外形標準課税の対象とならないように、今までは資本金を調整していました。
(2).制度の目的(税負担の公平性・応益課税・税収の安定性)
外形標準課税は2004年度(平成16年度)に導入されましたが、その目的は多岐にわたります。
- 税負担の公平性の確保
 赤字でも一定規模の事業活動を行っている以上、行政サービスを受けているため、その規模に相応しい税負担を求める。
- 応益課税としての税の性格の明確化
 法人が享受する行政サービスの経費を分担するという「応益」の考え方を明確にする。
- 地方財源の安定性
 所得に依存しないため、景気変動の影響を受けにくく、地方公共団体の安定した財源を確保する。
(3).今回の改正の背景(減資による課税逃れやグループ会社の資本金調整への対応)【参考:令和6年度税制改正】
外形標準課税の従来の基準は「資本金1億円超」でした。しかし、この基準を逆手に取り、課税を回避しようとする動きが深刻化しました。
総務省のデータによると、外形標準課税の対象法人数は、制度導入時に比べて約3分の2まで減少しています。その主な原因は、実質的な事業規模は変わらないにもかかわらず、形式的な資本金の調整(減資や組織再編)が行われてきたためです。
【問題視された主なケース】
- 減資による課税回避(項目振替型減資)
 資本金(例:5億円)を減らし、その額を資本剰余金に振り替える「項目振替型減資」が増加しました。これは、単に会計上の勘定科目を振り替えるだけであり、実質的な財産の規模は変わらないにもかかわらず、形式的に資本金が1億円以下となるため、外形標準課税の対象外となってしまうという「抜け道」でした。
- グループ会社による資本金調整
 企業グループが分社化やM&Aを行う際、子会社や孫会社の資本金を意図的に1億円以下に設定することで、グループ全体としての外形標準課税の適用範囲を縮小する事例も目立っていました。親会社(持株会社)のみが課税対象となり、実態として大規模な事業を行う子会社は対象外となる、という実態との乖離が生じていました。
このような公平性を損なう事態に対応するため、令和6年度税制改正において、外形基準を見直し、実質的に大規模な法人への課税を徹底することとなりました。この改正は、中小企業やスタートアップまで外形標準課税の対象を広げる意図ではなく、あくまで大企業やその100%子会社を対象としたものです。



外形標準課税の対象範囲の拡大により、該当する法人では税負担が増えるケースが生じ得るため、隠れ増税となります。
2. 改正前の対象法人
改正前において外形標準課税の対象となる法人は、原則として以下の基準のみでした。
| 区分 | 判定基準 | 
| 従来の基準 | 事業年度終了の日における資本金(または出資金)の額が1億円を超える法人 | 
この基準に該当しない法人(資本金1億円以下の法人)は、法人事業税のうち「所得割」のみが課され、「付加価値割」と「資本割」(外形標準課税)は課されませんでした。



判定基準がこれだけなら、資本金の額を1億円以下にして、外形標準課税の対象外となろうと考えるのは当然ですよね。
3. 改正後の対象法人(令和6年度改正)
今回の令和6年度税制改正では、従来の基準を維持しつつ、前述の課税回避を防ぐための2つの追加基準が設けられました。
| 区分 | 判定基準 | 適用開始時期 | 
| A. 従来の基準 | 事業年度末日における資本金の額が1億円を超える法人 | 継続 | 
| B. 減資への対応 | 次の3つの要件をすべて満たす法人 1. 前事業年度に外形標準課税の対象 2. 当該事業年度の資本金が1億円以下 3. 資本金と資本剰余金の合計額が10億円を超える | 2025年(令和7年)4月1日以後開始事業年度から | 
| C. 100%子法人等への対応 | 次の3つの要件をすべて満たす法人 1. 特定法人(注1)との間に完全支配関係がある100%子法人等である 2. 当該事業年度の資本金が1億円以下 3. 資本金と資本剰余金の合計額が2億円を超える (注2) | 2026年(令和8年)4月1日以後開始事業年度から | 
(注1)特定法人とは、資本金と資本剰余金の合計額が50億円を超える法人(非課税法人などを除く)または相互会社・外国相互会社を指します。 
(注2)この2億円超の判定において、公布日(令和6年3月30日)以後に資本剰余金を原資として親法人等へ配当を行った場合、その配当相当額を加算して判定します。これは、意図的に資本剰余金を減らして課税を回避する行為を防ぐための措置です。
参照:東京都主税局ホームページ 外形標準課税の対象法人の見直し及び中間申告義務判定に関する改正について



Bの減資への対応の区分については、資本金1億円以下で、資本金と資本剰余金の合計額が10億円を超える場合であっても、前事業年度に外形標準課税の対象ではなければ、外形標準課税の対象とはならないということですね。少し安心しました。



今回の改正で特に注意が必要なのは、資本金と資本剰余金の合計額が50億円を超える法人の100%子法人等です。
4. 改正前後の比較表
この改正によって、特に資本金1億円以下の法人の判定基準が大きく変わりました。
| 判定要素 | 改正前(従来基準) | 改正後(追加基準含む) | 
| 基本基準 | 資本金1億円超 | 資本金1億円超(維持) | 
| 減資対応 | 資本金1億円以下になれば対象外 | 資本金+資本剰余金が10億円超なら対象 | 
| グループ対応 | 100%子法人特有の基準はなし | 特定親会社(50億円超)の100%子法人等は2億円超なら対象 | 
| 適用開始時期 | 適用中 | 2025年4月1日~ (減資対応) / 2026年4月1日~ (子法人対応) | 
| 判定に使う金額 | 資本金の額 | 資本金の額 または 資本金+資本剰余金の合計額 | 
【経過措置・特例にも注意!】
- 減資への「駆け込み」対応(2025年4月1日施行初年度)
 公布日(R6/3/30)を含む事業年度の前事業年度に外形標準課税の対象であった法人が、公布日以後に減資を行い資本金1億円以下となった場合、施行日以後最初に開始する事業年度末に資本金と資本剰余金の合計が10億円超であれば、対象となります。駆け込み的な課税回避は困難です。
- 100%子法人等への激変緩和措置
 改正により新たに課税対象となった場合、施行後2年間は税負担の急激な増加を抑えるため、従来の課税方式で計算した税額を超える部分について、段階的に軽減措置(初年度2/3、次年度1/3控除)が適用されます。
- M&Aに係る特例措置
 産業競争力強化法の特別事業再編計画に基づきM&Aにより100%子法人等となった法人については、要件を満たせば最長5年間は外形標準課税の対象外となります。
参照:令和6年度(2024年度)経済産業関係税制改正について(P22-P24)
5. 実務への影響
今回の改正は、企業の資本政策、組織再編、税務会計のすべてに影響を及ぼします。特に実務担当者や経営者が注意すべき点を解説します。
(1).減資による外形標準課税回避が困難に
これまで、外形標準課税を回避する主な手法であった「資本金から資本剰余金への項目振替型減資」は、今回の改正により大幅に効果が制限されました。
今後は、単に資本金が1億円以下になるだけでなく、資本金と資本剰余金の合計額が10億円以下にならない限り、外形標準課税の適用を免れることはできません。特に、過去に外形標準課税の対象であった企業が減資を検討する場合、単純な税負担軽減を目的とした減資は期待通りの効果を得られない可能性が高くなりました。



外形標準課税の判定基準として、法人税法上の「資本金等の額」ではなく、会計上の払込資本「資本金と資本剰余金の合計額」を用いるため、原則として払込資本の算定には自己株式は含めないことから、自己株式の取得をしたところで判定に影響はしません。
(2).グループ再編・持株会社スキームへの影響
持株会社(ホールディングス)体制を構築する際、子会社の資本金を1億円以下に設定するスキームは一般的でした。しかし、2026年4月1日以降は、このスキームに大きな影響が出ます。
親会社(特定法人:資本金+資本剰余金50億円超など)の100%子法人等について、資本金と資本剰余金の合計額が2億円を超えている場合は、外形標準課税の対象となります。
これにより、M&Aや分社型分割などの組織再編を実施する際に、買収後または再編後の子会社が新たに外形標準課税の対象となるケースが発生します。買収や再編を検討する際には、対象会社の株式価値算定やグループ全体の税金費用を考慮する上で、この改正の影響を事前に検討することが不可欠です。
(3).税効果会計(法定実効税率)の見直し必要性
外形標準課税が適用される法人となるか否かは、税効果会計で用いられる「法定実効税率」に直接影響します。
外形標準課税の対象外の法人(資本金1億円以下)は、法人事業税において所得割のみが適用されますが、対象法人になると所得割の税率が下がり、代わりに付加価値割と資本割が加わります。この所得割の税率変更により、実質的な所得に対する税負担率(法定実効税率)が変わるのです。
例えば、東京都所在の法人の場合、外形標準課税の対象外(所得割のみ)から対象(外形標準課税適用)となると、法定実効税率が変動します。
繰延税金資産や繰延税金負債の計算は、将来解消が見込まれる時点の税率に基づいて行わなければなりません。改正の施行日(減資対応:2025/4/1、子法人対応:2026/4/1)を跨いで解消する一時差異がある場合、適用される法定実効税率が変わるため、繰延税金資産等の金額計算を見直す必要が生じ、損益に大きな影響を与える可能性があります。
上場企業や大企業グループは、特に繰延税金資産の算定に関して、適用時期や影響額のシミュレーションを早期に行い、監査対応の準備を進める必要があります。
(4).中間申告義務判定の改正にも注意
外形標準課税の対象法人かどうかの基準変更に合わせ、法人事業税の中間申告義務の判定基準も変更されます。
| 判定基準 | 改正前 | 改正後(2025年4月1日以後開始事業年度から適用) | 
| 中間申告義務 | 事業年度開始の日以後6か月を経過した日の前日の現況による | 前事業年度に外形標準課税の対象であったかどうかによる | 
これにより、たとえ当事業年度の途中(中間申告の判定時点)で資本金が1億円以下となり対象外になっていたとしても、前事業年度で対象であった場合は、中間申告の義務が生じることになります。
申告漏れや事務手続きの混乱を防ぐためにも、この判定基準の変更についてもしっかりと把握しておくことが重要です。
6. まとめ
今回の外形標準課税の改正は、大企業グループにとって、税務戦略を根本的に見直す必要があるほどのインパクトを持つものです。
(1).改正により対象法人が拡大し、「資本金1億円以下だから安心」ではなくなった
最も大きな変化は、「資本金1億円超」という形式的な基準だけでは、外形標準課税の対象外とは言い切れなくなったことです。
今後は、資本金と資本剰余金の合計額という実質的な事業規模を示す指標が用いられるようになり、実質的に大規模な法人は、減資をしても、あるいはグループの子会社として資本金を1億円以下にしていても、課税対象から逃れることが困難になりました。
(2).グループ内資本政策や再編スキームに影響大
特にグループ企業においては、親会社の規模(50億円超)と子会社の資本構成(2億円超)によって、新たな税負担が生じる可能性があります。
M&Aや組織再編を計画する際は、再編後の子会社が外形標準課税の対象となることによる税金費用の増加を、事前に正確に織り込む必要があります。
(3).顧問先・自社の資本構成を早めに点検し、改正後の影響をシミュレーションすることが重要
改正による対象拡大は、減資対応が2025年4月1日以後に開始する事業年度から適用、子法人対応が2026年4月1日以後に開始する事業年度から適用と、時期が分かれています。適用時期が迫っているものもありますし、税効果会計への影響は決算日時点で成立している税法に基づいて計算するため、迅速な対応が求められます。
貴社や顧問先が新たに外形標準課税の対象となる可能性がある場合は、以下の行動を今すぐ行ってください。
- 資本構成の点検:資本金、資本剰余金の合計額を把握し、新たな基準に照らして対象となるか否かを判定する。
- 影響額のシミュレーション:対象となった場合の法人事業税の増加額、および法定実効税率変更による税効果会計上の影響(繰延税金資産等の変動)を試算する。
- 実務体制の整備:外形標準課税対応の申告書(別表5の2など)の作成や、付加価値額の集計業務(報酬給与額、純支払利子、純支払賃借料など)に対応できる体制を整える。



改正内容は複雑であり、判断を誤ると予期せぬ税負担や申告漏れにつながります。専門家である税理士と連携し、早めに最適な税務戦略を構築することが、今後の企業経営において極めて重要となるでしょう。相談できる税理士がいない場合には、お気軽にこちらまでお問い合わせください。










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