 ミミレイドン
ミミレイドンボス、おはようございます!
先日、不動産の相続税評価額について、教えていただいたので、他の資産の相続税評価額の算定についても教えてほしいです。



わかりました!それでは、株式の評価方法なんてどうでしょうか?



一般的に保有されている上場株式は、市場での取引価格(時価)が簡単に把握できますよね?だから、改めて評価額の算定について、教えてもらう必要ないと思うんですけど?



そうですね。上場株式は、市場での取引価格(時価)が簡単に把握できるため、評価額の算定に特段の問題はないかと思います。
しかし、非上場株式についてはどうでしょうか?市場価格が存在しないため、その評価方法は非常に複雑で、実務上も難しい論点の一つとされています。税理士でも間違えるくらいです。
そこで本記事では、非上場株式の評価方法の基本を整理し、代表的な算定手法にはどのようなものがあるのかを分かりやすく解説していきます。
1.はじめに
(1).非上場株式の特徴(市場価格が存在しないため、算定が必要)
上場株式は証券取引所で自由に売買され、銘柄ごとの価格が公表されています。しかし、非上場株式(未公開株、取引相場のない株式とも呼ばれます)はマーケットで売買されないため、客観的な価格を把握するのが難しいという特徴があります。このため、株式の移動が行われる際には、様々な条件に照らし合わせて適切に評価しなければなりません。
(2).株価算定が必要となる典型的な場面
株価算定は、以下のような株式の移動が行われる際に利用されます。
①相続税・贈与税の申告
相続や贈与によって非上場株式を取得した場合、相続税・贈与税の計算のために株価を算定する必要があります。この評価額は、課税価格を算出する目的で、主に財産評価基本通達というルールに基づいて詳細に定められます。
②事業承継(親族内承継・MBOなど)
親族への承継や、MBO(経営陣による買収)など、後継者へ株式を移転する際に、公正な価格を決定するために算定が必要です。
③M&A・株式譲渡
M&A(企業の合併・買収)や第三者割当増資などの取引において、買い手企業と売り手企業が交渉するための客観的な目安として企業価値評価が行われます。
(3).株価算定の基本的な考え方(客観性・合理性・継続性)
株価算定のプロセスにおいては、客観的な評価ができる理論的な売却価格を計算し、それを参考に価格交渉するのが一般的です。特に、評価は事業の実態に基づいた理論的に整合性のある評価であること、そして、その結果が客観性と合理性を確保することが不可欠です。税務当局も時価を基準に算定する原則は、取引においても課税においても変わらない、という見解を示しており、恣意性(しいせい)を排除した評価が求められます。
2. 株価算定の基本的な枠組み
企業価値評価の手法は多岐にわたりますが、それらは大きく以下の3つのアプローチに分類されます。
(1).資産アプローチ(純資産価額方式など)
企業の保有する資産と負債に着目し、その差額である純資産をベースに企業価値を計算する手法です。
- 代表的な方式
 純資産価額方式(税務評価)や時価純資産法(M&A実務評価/修正簿価純資産法とも呼ばれる)。
- 基本的な考え方
 会社を清算(解散)した場合に、株主にいくら財産が残るか(税引後)という観点から価値を評価します。
- 特徴
 会計上の数値に基づき計算するため客観性が高く、現時点の資産価値を把握できます。ただし、将来の収益力や無形資産(ブランド力、技術など)は反映されません。
(2).収益アプローチ(DCF法、配当還元法など)
企業が将来生み出すと期待される収益(キャッシュフローや利益)をベースに企業価値を算出する手法です。
- 代表的な方式
 DCF法(ディスカウント・キャッシュフロー法)、収益還元法、配当還元法(税務特例)。
- 基本的な考え方
 資本は時間の経過とともに価値が増殖するという考えに基づき、将来の価値をリスクを勘案した割引率で現在の価値に換算します。
- 特徴
 継続企業としての本源的価値を測定する、理論上最も合理的な評価手法とされています。
(3).市場アプローチ(類似業種比準価額方式など)
類似する上場企業や過去の取引事例を参考に、相対的な比較を通じて企業価値を計算する手法です。
- 代表的な方式
 類似業種比準価額方式(税務評価)、マルチプル法(類似企業比較法)。
- 基本的な考え方
 「類似のものは類似の価格で取引される」という市場原理に基づき、同業他社の市場での評価を参考にします。
- 特徴
 計算が比較的容易で、市場の動向や相場観を反映しやすいというメリットがあります。
(4).税務上の評価方法(財産評価基本通達)と、M&A実務での評価方法の違い
評価方法には、「課税のための評価」と「投資判断のための評価」という、根本的な目的の違いがあります。
- 税務上の評価
 相続税・贈与税の課税価格算定を目的とし、財産評価基本通達(国税庁方式)納税の公平性・簡便性を重視したルールです。
- M&A実務での評価
 投資判断やM&Aの取引価格決定を目的とし、将来の収益性(DCF法)や市場の相場観(マルチプル法)といった経済的実態を重視します。
税務評価は、純資産価額方式の評価差額に対する法人税等相当額(一般に概ね30%台後半)の控除など、納税者に有利な規定が含まれることもあり、時価とは大きく乖離する可能性がある点に注意が必要です。
3. 税務上の株価算定方法(相続・贈与)
税務評価では、株式を取得した株主が、同族株主等かそれ以外の株主(少数株主)かによって、適用する評価方式がまず区分されます。
(1).原則的評価方法
主に会社を支配している同族株主等が株式を取得した場合に適用される評価方法です。
①類似業種比準価額方式(上場会社の株価指標を参考に算定)
類似業種の株価を基準とし、評価会社の1株当たりの配当金額、利益金額、純資産価額(簿価)の3要素を上場会社と比較して評価します。主に大会社の評価に適用されるのが原則です。
②純資産価額方式(貸借対照表ベースで評価)
会社の総資産と負債を相続税評価額(時価)に洗い替え、その差額から評価差額に対する法人税額等相当額(概ね30%台後半の率)を差し引いて純資産価額を算定する方法です。主に小会社の評価に適用されるのが原則です。
(2).特例的評価方法
③配当還元方式(小規模株主向け)
一年間の配当金額を、一定の利率(10パーセント)で還元して株式の価額を評価します。配当還元方式による評価額は、通常、原則的評価方式に比べて低くなるという特徴があります。同族株主以外の株主に原則適用されます。ただし、会社・株主の具体的要件により適用可否の判断が必要です。
(3).適用の判断基準(大会社・中小会社、株主の持株割合など)
原則的評価方式を適用する場合、どの評価方法を使うかは、会社の規模によって異なります。
- 会社規模の判定
 会社を大会社、中会社(さらに大・中・小に区分)、小会社の5段階に分類します。判定基準には、総資産価額、従業員数、取引金額などが用いられます。
- 大会社の評価
 原則として類似業種比準価額方式(ただし純資産価額方式の選択も可能)。
- 小会社の評価
 原則として純資産価額方式。
- 中会社の評価
 類似業種比準価額方式と純資産価額方式を、規模に応じて一定の割合で併用(折衷方式)します。
- 特定の評価会社
 開業前・休業中、特定の資産(土地や株式)の保有割合が高いなどの会社(特定会社)は、規模にかかわらず原則として純資産価額方式が適用されます。



税務上の評価方法を採用するケースだと、株価を低くしたいと考えるのが一般的でしょう。傾向としては、配当還元方式<類似業種比準価額方式<純資産価額方式となるイメージです。
各評価方式の詳細は、別の記事(後日)で解説します。
4. M&A・実務で用いられる算定方法
M&Aや投資の場面で、企業の将来的な収益性を反映し、投資判断のために使われる評価方法です。
(1).DCF法(ディスカウント・キャッシュフロー法)
DCF法(Discounted Cash Flow 法、割引現在価値法)は、企業が将来生み出すフリーキャッシュフロー(FCF)を予測し、それを割引率(WACC)で現在価値に割り引くことで企業価値を算定する手法です。
- 特徴
 将来の成長性や収益性を最も詳細に反映できるため、理論上最も合理的な評価法とされます。
- 計算の3要素
 FCF(営業・投資活動から自由に使えるキャッシュ)、割引率(WACC:資金調達コスト)、ターミナルバリュー(予測期間以降の継続価値)。
- 留意点
 将来予測や割引率の設定に評価者の主観(恣意性)が入りやすいため、予測の精度が結果に大きく影響します。
(2).マルチプル法(EBITDA倍率など)
マルチプル法(類似企業比較法)は、上場している類似企業の財務指標に対する倍率(マルチプル)相対的評価手法です。
- EBITDAマルチプル
 M&Aで広く用いられる指標に、EV(企業価値)をEBITDA(利払前・税引前・減価償却前利益)で割ったEV/EBITDA倍率があります。EBITDAは企業の「実質的なキャッシュを稼ぐ力」を評価しやすいのが特徴です。
- メリット
 計算が容易で市場の相場観を反映しやすく、DCF法などの結果の妥当性を検証するクロスチェックにも使われます。
(3).時価純資産法
時価純資産法は、企業が保有する全ての資産と負債を時価で評価し直し、その差額(時価純資産)を企業価値とするコストアプローチの手法です。
- 実務上の呼称
 実際にはすべての資産・負債を時価評価することは困難なため、帳簿価額を時価に修正するという意味で修正簿価純資産法と呼ばれることが多いです。
- メリット
 企業の現時点の財務実態を客観的に把握できるため、資産構成の把握が重視されるM&Aで有用です。
- デメリット
 会社の将来的な収益力や無形資産(のれん)を評価できないため、M&Aの取引価格を決定する際には、時価純資産にのれん代を加算するケースが一般的です。
(4).税務評価との違い(「課税のための評価」か「投資判断のための評価」か)
税務評価(財産評価基本通達)は、「課税(相続税・贈与税の算定)」を目的として法令に基づき評価しますが、M&A実務の評価は「投資判断や取引価格の決定」を目的として経済合理性に基づいて評価します。
- 時価の乖離リスク
 税務評価は、特に配当還元方式などでは株価が非常に低く算出される傾向があり、実際の取引時価(公正価値)と大きく乖離することがあります。
- 否認事例
 相続税申告後に、総則6項の適用により、通達評価が著しく不適当と判断された場合、DCF等による評価額が課税上採用された事例があります。一方で、DCF評価の妥当性が争われ否認された事例もありますので、事例ごとに慎重な判断が必要となります。



総則6項とは、国税庁が定める「財産評価基本通達」の第1章・総則第6項のことで、相続税や贈与税の財産評価において、通達による評価が著しく不適当と認められる場合に、国税庁長官の指示により別の方法で評価することができるという規定です。
実務上は「著しく不適当」と判断されるのはかなり稀かと思います。
5. 株価算定の実務上の留意点
(1).目的に応じた評価方法の選択(相続 vs M&A)
非上場株式の評価方式は、評価の目的(相続、贈与、M&A、紛争など)や株主の立場によって、選択すべき方法が異なります。
- 相続・贈与
 財産評価基本通達の適用要件(会社規模、株主区分)を厳密に判定します。
- M&A・投資判断
 企業の将来的な成長性を反映するDCF法や、市場の客観的な相場を反映するマルチプル法が優先されます。
(2).税務リスク(過少評価・過大評価による否認リスク)
税務評価においては、特に相続税・贈与税の節税を目的とした過度な評価減に対して、税務当局が厳しい視線を向けています。相続税評価額が取引実態上の時価と大きく乖離していると認められた場合、総則6項の適用により評価額が否認され、DCF法など実務で使われる高い評価額で課税されるリスクがあります。
(3).少数株主・支配株主で評価が異なる点
非上場株式の評価は、誰がその株式を持つかによって評価額が変わるという特徴があります。
- 支配株主(同族株主)
 会社の経営に影響力を持つため、企業の資産や収益力を反映した原則的評価方式が適用されます。
- 少数株主
 経営権がなく、配当収入しか期待できないため、配当還元方式が適用され、株価は低く評価される傾向があります。



配当還元方式は、株価は低く評価される傾向があるため、採用できる場合には、通常は、配当還元方式で評価すべきと考えております。しかし、税理士に計算を依頼していても、原則的評価方法で評価をされているもったいないケースが散見されますので、注意しましょう。
(4).第三者評価機関(会計士・税理士・FA)の活用
株価算定、特にDCF法のような将来予測に基づく評価は、評価人の見積もりに依存する部分が大きく、複雑な計算や高度な判断が求められます。
- リスク回避
 評価方法の選択や計算を誤ると、後で多額のペナルティが課されるリスクがあります。
- 専門家の役割
 公認会計士、税理士、M&Aアドバイザー(FA/仲介会社)などの専門家は、客観性と合理性を確保した評価書を作成し、目的に応じた最適な手法選択や税務リスクの最小化をサポートします。
6. まとめ
(1).非上場株式の株価算定は「目的」「立場」「法令」によって手法が異なる
非上場株式の株価算定は、上場株式と異なり、市場の価格に頼れません。そのため、「何のために評価するのか(目的)」、「誰が株主になるのか(立場)」、そして「どの法令(通達)を適用するのか」という3つの視点から、最適な評価手法(資産、収益、市場アプローチ)を選択することが必須となります。
(2).税務評価と実務評価を混同しないことが重要
課税目的の税務評価(国税庁方式)と経済合理性を追求する実務評価(M&A/投資)は、計算のベースも、出てくる結果も、適用ルールも異なります。特に、税務評価による低い株価を安易に取引に適用すると、時価との乖離による贈与税や所得税の課税リスクを招くため、両者を混同してはいけません。



非上場株式の評価は、会社の規模判定、株主の区分、時価評価の細かな調整など、専門的な知識と経験なしには正確に行えません。特に、相続税対策やM&Aを検討されている方は、早い段階で専門家に相談し、リスクを最小限に抑えた上で、最適な事業承継や取引を進めることが成功の鍵となります。相談できる税理士がいない場合には、お気軽にこちらまでお問い合わせください。










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