ミミレイドンボス、おはようございます!
昨日は独立企業間価格の算定方法について、取り上げていただきありがとうございました!
算定方法を選定する際に、「比較対象とした企業は本当に類似しているか」が非常に大事だと言ってましたが、比較対象とする取引はどのように選ぶべきでしょうか?



移転価格の実務でつまずきやすいのが「比較対象取引をどう選ぶか」です。CUP・RP・CP・TNMMなど方法ごとに“似ているべきポイント”は変わり、レンジ(幅)の扱いも誤解されがちです。
今朝は、現行の日本の移転価格税制の考え方に沿って、比較対象取引の意義、比較可能性の5要素、スクリーニングの勘所、レンジの実務的な読み方を整理してみましょう。



移転価格税制の①制度の概要編、②独立企業間価格の算定編については、こちらの記事で解説しておりますので、宜しければご覧ください。
【町田市の税理士が解説】移転価格税制とは?①制度の概要編
【町田市の税理士が解説】移転価格税制とは?②独立企業間価格の算定編
【比較対象取引】
1.比較対象取引の意義
比較対象取引とは、独立企業原則に基づき、国外関連取引(親子会社間などの関連者間取引)の条件が適正であるかを検証するために参照される、「特殊の関係にない独立した第三者間で行われる取引」を指します。
独立企業間価格を算定する際には、この比較対象取引と国外関連取引を比較・検討する「比較可能性分析」が不可欠です。算定手法によって、比較対象取引に求められる「類似性(比較可能性)」の重点が異なります。
棚卸資産の売買(販売または購入)において、各算定方法の区分に応じ、比較対象取引として求められる要件や取引の内容は以下の通りです。
(1).独立価格比準法 (CUP法)
- 取引の内容
国外関連取引に係る棚卸資産と同種の資産を、同様の状況(取引段階、数量、時期、引渡条件等)の下で売買した取引です。 - 特徴
資産の内容についての厳格な同種性が求められます。物理的特徴、品質、規格、ブランドの有無などが極めて類似している必要があります。 - 選定のポイント
わずかな差異でも価格に重大な影響を与えるため、差異がないこと、あるいはその差異を相当程度正確に調整できることが条件となります。
(2).再販売価格基準法 (RP法)
- 取引の内容
再販売者(買手)が、国外関連者から仕入れた資産と同種または類似の資産を、第三者に対して販売した取引です。 - 特徴
資産自体の類似性よりも、再販売者が果たす機能(広告宣伝、マーケティング、在庫リスクの負担、アフターサービス等)の類似性が重要視されます。 - 選定のポイント
取引段階(卸売か小売か等)が同じであり、再販売の際に付加する付加価値の構造が似ている取引を選定します。



TNMMほどではないが、CUP法よりは製品の類似性の要件が緩和されております。
(3).原価基準法 (CP法)
- 取引の内容
販売者(売手)が、国外関連取引に係る資産と同種または類似の資産を、第三者に対して販売した取引です。 - 特徴
RP法と同様、製品の同種性よりも、製造工程における機能、使用資産、負担するリスクの類似性に重点が置かれます。 - 選定のポイント
製造受託の形態、原材料の調達方法、品質管理の程度などが類似している取引が対象となります。



こちらも、RP法と同様にTNMMほどではないが、CUP法よりは製品の類似性の要件が緩和されております。
(4).比較利益分割法
- 取引の内容
国外関連取引と類似の状況の下で行われた、第三者間取引における利益の配分割合を特定できる取引です。 - 特徴
取引当事者がそれぞれ果たす機能や貢献度に応じて、どのように利益が分けられているかという「配分比率」そのものを比較対象とします。 - 選定のポイント
取引の内容だけでなく、当事者間の関係性や、統合の程度が国外関連取引と類似している必要があります。



利益分割法には、比較利益分割法・寄与度利益分割法・残余利益分割法があり、寄与度利益分割法は第三者取引の配分比率を直接参照できない場合でも、当事者の機能・リスク・資産等に照らして合理的な配賦要因(例:費用、資産、従業員等)により利益を配分する点に特徴がありますが、今回説明は割愛させていただきます。
(5).残余利益分割法
この手法は二段階で計算を行うため、第一段階において比較対象が必要となります。
- 取引の内容(基本的取引)
独自の無形資産などを用いず、標準的な活動(ルーティン機能)を行う第三者の取引です。 - 特徴
取引当事者のうち、ユニークで価値ある貢献を行っていない側の活動をベンチマークするための取引を選定します。 - 選定のポイント
比較的単純な製造や販売活動を行い、市場平均的な利益を得ている企業のデータが比較対象(基本的取引)となります。



この手法では、第一段階(定型的な機能に対する報酬の算定)において、TNMM等の考え方を用いて比較対象取引を選定します。
(6).取引単位営業利益法 (TNMM)
- 取引の内容
検証対象者と類似の機能及びリスクを有する第三者が、同種または類似の資産を取り扱っている取引です。 - 特徴
基本三法(CUP、RP、CP)よりも製品差異に対して寛容であり、公開情報から比較対象企業(取引)を見つけやすいという利点があります。 - 選定のポイント
資産の特性よりも、事業活動において遂行される機能の類似性が重視されます。また、営業利益(売上高営業利益率や総費用営業利益率など)に重大な影響を及ぼすような機能差が認められないことが求められます。
(7).比較対象取引選定における共通の留意事項
- 内部比較対象取引の優先
理想的には、自社(法人)が第三者と行っている取引を優先的に検討します。これは情報の信頼性が高く、会計基準の不一致が生じにくいためです。 - 5要素の検討
いずれの手法においても、①資産・役務の特性、②機能・リスク分析、③契約条件、④経済状況、⑤事業戦略の5要素を検討し、類似性を判断する必要があります。5要素については、次の章で解説します。



比較対象取引が見つからない場合や、情報の制約がある場合には、利益分割法やDCF法、あるいは基本三法に「準ずる方法」などが検討されることになります。
2.比較対象取引の選定に当たって考慮すべき諸要素
比較対象取引の選定に当たっては、国外関連取引と非関連者間取引の間の類似性の程度(比較可能性)を判断するため、法令や通達(措置法通達66の4(3)‐3等)に基づき、主に以下の5つの諸要素を総合的に検討する必要があります。
(1).資産又は役務の特性
取引される資産や提供される役務の具体的な内容が、独立企業間価格に与える影響を検討します。
- 棚卸資産(有形資産)
物理的特徴、品質、信頼性、供給の可能性及び数量など。 - 役務(サービス)
役務の性質、内容、期間、範囲など。 - 無形資産
ライセンスか販売かの取引形態、種類(特許、商標、ノウハウ等)、法的保護の期間、使用による期待収益など。
(2).当事者が果たす機能、使用する資産及び負担するリスク
機能分析を通じて、取引の各当事者が何を行っているか、どのような能力を有しているかを特定します。
- 機能
設計、製造、組立、研究開発、マーケティング、販売、物流、アフターサービスなどの遂行状況、及びそれらの管理・意思決定の有無。 - 使用資産
工場、設備、価値ある無形資産、金融資産の種類、市場価値、場所、権利保護の状況など。 - リスク
市場リスク(需要変動等)、在庫リスク(陳腐化等)、信用リスク(不良債権等)、為替リスク、製造物責任リスクなど。- リスクのコントロール:リスクを負担する機会の選択や対応に関する意思決定を行い、その機能を実際に遂行しているかが重要視されます。
- 財務能力:リスクが現実化した際に、その損失を負担するための資金力(内部資産や資金調達能力)があるかを検討します。
(3).契約条件
関連者間の契約(書面だけでなく、口頭や黙示の合意、当事者の実際の行動を含む)における責任、権利、義務の分担を検討します。
- 具体的な項目
引渡条件(FOB/CIF等)、決済条件(支払期限)、取引数量、契約期間、製品保証、返品条件、契約更改条件など。 - 実態の重視
書面の契約と当事者の実際の行動が一致しない場合は、実際の行動が優先されます。
(4).経済状況
独立企業間価格は市場によって異なるため、市場の類似性を以下の観点から判断します。
- 市場の特性
地理的な場所、市場規模、市場段階(小売・卸売)、競争の程度、代替商品の利用可能性、需給水準、消費者の購買力、立地上の優位性(ロケーション・セービング)など。 - 政府の政策
価格規制、関税、為替管理など。
(5).事業戦略
企業が採用している戦略が、一時的に価格や利益率に影響を与えている可能性を検討します。
- 具体例
市場浸透戦略(一時的な低価格設定や広告宣伝費の増大)、新製品開発、多様化、リスク回避策、事業再編など。 - 合理性
独立企業であれば、その戦略による将来の利益期待を考慮して、同様に利益を犠牲にする用意があったかを精査します。
選定・スクリーニングのプロセス
実際の選定作業(スクリーニング)では、以下の基準を用いて比較対象取引の候補を絞り込みます。
- 定量的基準
売上高、資産、従業員数などの規模、研究開発費や広告宣伝費の売上比率、輸出売上比率、棚卸資産保有高などにより、機能や事業規模の相違による影響を排除します。 - 定性的基準
取扱製品の類似性、事業戦略の相違、事業を遂行するための機能の相違、特殊な状況(倒産、合併直後等)の有無を確認します。



また、無形資産が関わる取引では、無形資産の種類、対象範囲、利用態様等の類似性について特に着目して検討を行う必要があります。
3.比較対象取引が複数ある場合の取扱い
比較可能性が十分な非関連者間取引(比較対象取引)が複数存在する場合、独立企業間価格は単一の数値ではなく、「独立企業間価格幅(レンジ)」として一定の幅を持つことになります。
具体的な取扱いは以下の通りです。
(1).実際の取引価格が「幅」の内にある場合
選定された最も適切な算定方法に基づき算定された独立企業間価格の幅の中に、実際の国外関連取引の対価の額(または利益率)がある場合には、その取引は独立企業間価格で行われたものと認められ、移転価格課税の対象とはなりません。



既に解説した通り、比較対象取引とは国外関連取引との類似性の程度が充分な非関連者間取引を言うため、比較対象取引によって形成される独立企業間価格の幅(レンジ)は、比較可能性の観点からすでに充分な絞り込みが行われたものとなります。したがって、このような比較対象取引によって形成される独立企業間価格の幅の内(全ての比較対象取引にかかる価格等の最大値と最小値の間の幅、いわゆるフルレンジ)にあれば、原則として、独立企業間価格として認められる可能性が高いものと考えられます。
(2).実際の取引価格が「幅」の外にある場合
国外関連取引の価格または利益率等が、比較対象取引の形成する幅の外にある場合には、原則としてその「平均値」に基づき独立企業間価格を算定します。 ただし、比較対象取引のデータの分布状況等から、平均値よりも「中央値」などの他の数値を用いることがより合理的であると認められる場合には、その値が用いられます。
(3).統計的手法(四分位法)の適用
比較対象取引が複数(一般に4つ以上など)存在し、定量的な調整が困難な差異が残る場合等に、比較結果の信頼性を高める目的で、統計的手法(四分位法等)を用いて範囲を絞り込むことがあります。
- 計算方法
比較対象取引の調整済割合を小さい順に並べ、下位から25%(第1四分位)から75%(第3四分位)の範囲内にある割合を用いて、独立企業間価格を検討します。 - 実務上の手法
この計算には、実務上はExcel関数等を用いて算出されることが一般的です。 - 目的
これは、特定や定量化が困難な差異による影響を最小限に抑え、分析の信頼性を向上させるために行われます。
(4).事前確認(APA)における取扱い
事前確認においても、将来の予測に基づき目標利益率に一定の幅を設定することが一般的です。
- レンジの選択
比較対象取引の全てから構成されるフル・レンジや四分位法などが用いられます。 - データの更新
各年度ごとに比較対象取引のデータを最新のものに更新して範囲を再設定する方法と、過去の一定期間のデータで範囲を固定する方法のいずれかが検討されます。
(5).留意点
- 比較可能性の担保
複数の比較対象取引を用いる場合であっても、それぞれの取引が措置法通達で定められた5つの検討要素(資産・役務の特性、機能分析、契約条件、経済状況、事業戦略)を満たしている必要があります。 - 極端な数値の扱い
比較対象の中に異常に高い利益や損失を出している企業がある場合は、その原因が比較可能性の欠如によるものかどうかを精査し、不適切であれば除外します。



このように、複数の比較対象取引がある場合は、単なる平均だけでなく、統計的なレンジの概念を用いて、その企業の取引価格が市場の実勢から大きく乖離していないかを多角的に判断することになります。
4.まとめ
- 比較対象取引は、国外関連取引が独立企業間価格かどうかを検証するための“基準点”であり、比較可能性分析が前提になります。
- 何を「似ている」と評価するかは算定方法で異なり、CUPは製品同一性、RP/CPは機能・リスク、TNMMは機能差が利益率に与える影響が重要です。
- 比較可能性は、資産・役務の特性/機能・リスク/契約条件/市場の状況/事業戦略の5要素で総合判断します。
- 比較対象が複数ある場合、レンジ内なら問題がない一方、レンジ外では原則平均値(状況により中央値)で調整する考え方が示されています。



税務調査で問われやすいのは、「なぜその比較対象を選んだのか」「差異をどう扱ったのか」「レンジの外に出たとき、なぜその調整値なのか」です。制度上の枠組み(平均値・中央値等)に沿って説明できるよう、比較対象選定のプロセスを文書化しておくことが重要です。










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