ミミレイドンボス、おはようございます!
昨日は移転価格税制の比較対象取引の選定について、取り上げていただきありがとうございました!今朝はどのようなテーマでしょうか?



今朝は国税当局による移転価格税制の税務調査について整理してみようと思います。昨年、私も立ち会いましたが、正直、通常の税務調査よりも大変です。



通常の税務調査でも大変なのに、、、求められる情報が多そうですよね。



移転価格の税務調査は、いきなり「資料を出してください」から始まります。しかも、ローカルファイル等の提出期限は、一般の税務調査よりも明確です。「何を、いつまでに、どこまで出せばよいか」を誤ると、当局は同業他社データ等による推定で更正・決定を進めることが可能になります。今朝は、国税庁の事務運営や法令の枠組みに照らし、移転価格調査がどのような方針で進むのか、そして実務で“詰み”を避けるために何を整備すべきかを整理します。



移転価格税制の①制度の概要編、②独立企業間価格の算定編、③比較対象取引の選定編については、こちらの記事で解説しておりますので、宜しければご覧ください。
【町田市の税理士が解説】移転価格税制とは?①制度の概要編
【町田市の税理士が解説】移転価格税制とは?②独立企業間価格の算定編
【町田市の税理士が解説】移転価格税制とは?③比較対象取引の選定編
移転価格税制の税務調査(執行)
1.税務調査(執行)における基本方針
移転価格税制の執行における基本方針は、多国籍企業の取引が「独立企業原則(Arm’s Length Principle)」に基づいているかを検証し、適正な課税所得の確保と国際的な二重課税の回避を両立させることにあります。
日本の国税庁が定めている「移転価格事務運営要領(事務運営指針)」および「OECD移転価格ガイドライン」に基づき、執行の具体的な基本方針を整理して解説します。
(1). 事務運営の基本方針
日本の税務当局は、移転価格税制の円滑かつ適切な執行を図るため、以下の3つの基本方針を掲げています。
- 取引価格の検討と的確な調査
法人の国外関連取引の価格が、非関連者間取引の価格(独立企業間価格)と整合しているかを十分に検討します。問題が認められる場合には、市場状況や業界情報を幅広く把握し、最も適切な算定方法を選定して的確な調査を実施します。 - 事前確認(APA)による予測可能性の確保
納税者からの申出に基づき、独立企業間価格の算定方法等についてあらかじめ合意する事前確認を行います。これにより、納税者の税務上の予測可能性を高め、円滑な執行を図ります。 - 国際的な認識の共有と適切な執行
国際的な二重課税を解決するためには、各国税務当局間の共通認識が不可欠です。そのため、調査や事前確認審査においては、OECD移転価格ガイドラインを必要に応じて参考にし、適切な執行に努めます。
2. 税務調査(執行)における具体的な調査方針
(1). 具体的な調査方針
調査の実施にあたっては、形式的な検討に陥ることなく、個々の取引実態に即した検討を行うことが重視されます。
- 合理的な選択肢との比較
国外関連取引の条件が、法人が選ぶことのできた他の合理的な選択肢(代替案)と比べて、事業目的に照らし明らかに不利な条件になっていないかを検討します。 - 多面的な利益率の検討
- 国外関連取引の利益率(売上総利益率や営業利益率等)が、同種の市場や事業を営む非関連者の利益率に比べて過少になっていないか。
- 国外関連者との間での利益配分が、それぞれの果たした機能や負担したリスクに見合っているか。
- 効率的な調査展開
当初から詳細な算定を行うのではなく、まずは比較対象取引の候補となる取引の利益率の範囲内(レンジ)に国外関連取引が収まっているかを確認するなど、効率的な調査展開を図ります。



調査官は、まず納税者が価格設定に際して自ら選択した算定方法の全体像から分析を始めるよう奨励されています。
(2). 文書化制度による透明性の向上
執行の重要な柱として、BEPSプロジェクトの勧告に基づいた「3層構造の文書化制度」が導入されています。これには以下の3つの目的があります。
- 納税者の自律的な評価
納税者自身が、取引時または申告時までに、自らの移転価格が独立企業原則に則っているかを確認する機会を確保します。 - リスク評価の効率化
税務当局が、調査を行うべき事案を早期に特定するための情報(マスターファイル、国別報告書)を提供します。 - 詳細な調査の支援
個々の取引の詳細な分析(ローカルファイル)を通じて、税務調査を適切かつ迅速に実施します。



調査の執行において、納税者が作成・保存している「移転価格文書」は極めて重要な役割を果たします。税務当局はローカルファイルや独立企業間価格を算定するために重要な書類の提示・提出を求めます。ローカルファイルは原則45日以内、その他の重要書類は60日以内の範囲で調査官が指定する日までに提出しなければなりません。指定された期限までに書類が提示・提出されない場合、国税当局は同業者への質問検査(同業者調査)を行うことができ、それにより把握した同業者の利益率等を用いて所得を算定・課税(推定課税等)されるリスクがあります。
(3). 国際的な二重課税の回避と解決
執行の過程で生じた二重課税については、租税条約に基づく相互協議(MAP)を通じて解決を図ります。
- 対応的調整
一国で移転価格調整(課税)が行われた場合、他方の国がそれに対応して税額を減額する調整を行い、グループ全体の二重課税を排除するよう努めます。 - 同時調査の活用
必要に応じて、二カ国以上の税務当局が特定の納税者に対して同時に調査を行うことで、情報の把握を早め、問題解決を迅速化します。



このように、移転価格税制の執行は、「納税者の協力的なコンプライアンス(文書化)」と「当局による適正なリスク評価・調査」、そして「事前確認や相互協議による国際的な合意」という多層的なアプローチによって運用されています。
(4). 納税者の理解と協力
移転価格は「厳密な科学」ではなく、一定の幅が生じるものであるため、執行にあたっては納税者との合意形成も重視されます。
- 十分な説明
納税者が選定した方法が認められない場合、当局はその理由や、代わりに適用する算定方法の内容について十分な説明を行い、納税者の理解を得るよう努めます。 - 柔軟な対応
調査官は調査において柔軟であり、全ての事実と状況の下で非現実的な精密さを納税者に要求しないよう配慮します。



このように、国税庁の調査方針は、「実態に即した的確な把握」、「文書化制度を通じた効率的なリスク評価」、および「独立企業原則に基づく適正な所得配分」を軸として運営されています。
3.税務調査(執行)にあたり配意する事項
国税庁の事務運営指針では、国外関連取引(移転価格)の検討は、申告書や調査で集めた資料をもとに行う とされています。さらに、独立企業間価格を計算する前に、取引の実態に即した多角的な分析を行うことが必要 とされています。
たとえば、次のような検討方法により効果的な調査展開を図ることとしております(移転価格事務運営指針3-2)。
- 法人の国外関連取引に係る事業と同種で、規模、取引段階その他の内容が類似する複数の非関連取引(比較対象取引の候補と考えられる取引)に係る利益率等の範囲内に、国外関連取引に係る利益率等があるかどうかを検討します。



国外関連取引の利益率が、同種・同規模の独立企業間取引(比較対象取引)の利益率の範囲に入っているかどうかを確認するということですね。



これは 移転価格の基本的な比較(ベンチマーク) を行う場面です。 税務署は、納税者が提示した利益率が「独立企業ならこのくらい」という範囲に収まっているかをチェックします。範囲外であれば、独立企業間価格に合っていない可能性が高い と判断され、調査が深掘りされます。
ポイントとしては、Comparable(比較対象)の選定が甘いと、利益率が範囲外と判断されやすいため、選定の際には、業種・機能・リスク・規模の整合性が重要となります。
- 国外関連取引に係る棚卸資産等が一般的に需要の変化、製品のライフサイクル等により価格が相当程度変動することにより、各事業年度又は連結事業年度ごとの情報のみで検討することが適切でないと認められる場合には、その事業年度又は連結事業年度の前後の合理的な期間におけるその国外関連取引又は比較対象取引の候補として考えられる取引の対価の額又は利益率等の平均値等を基礎として検討します。



価格が需要変動や製品ライフサイクルで大きく変動する場合は、単年度だけで判断せず、前後の複数年度の平均値などを使って検討するということですね。



税務署は 単年度の利益率だけで「高すぎる又は低すぎる」とは判断しない ということです。 特に製造業・在庫品を扱う業種では、景気や製品サイクルで利益率が大きく動くため、複数年度平均が合理的とされます。
実務ポイントとして、納税者側も、ローカルファイルで「複数年度分析」を示すことで説得力が増すことができます。税務署側も、OECD ガイドラインに沿って複数年度分析を採用する傾向が強いです。
- 国外関連取引に係る対価の額が当該国外関連取引に係る取引条件等の交渉において決定された過程等について、次の点も考慮の上、十分検討します。
イ 法人及びその国外関連者が国外関連取引に係るそれぞれの事業の業績を適切に評価するために、独立企業原則を考慮して当該国外関連取引に係る対価の額を決定する場合があること。
ロ 法人又は国外関連者が複数の者の共同出資により設立されたものである場合において、その出資者と国外関連取引の当事者以外の者が当該国外関連取引に係る取引条件等の交渉の当事者となる場合があること、また、当該交渉において独立企業原則を考慮した交渉が行われる場合があること。



国外関連取引の価格がどのような交渉過程で決まったかを確認し、
①独立企業原則を考慮した価格決定が行われているか、②出資者など第三者が交渉に関与している場合、その影響をどう考えるかを十分に検討するということですね。



税務署は 「どうやってその価格になったのか」 を重視します。 特に、
グループ内の恣意的な価格設定ではないか、第三者が関与して独立企業間の交渉に近い状況だったのかを確認します。
実務ポイントとしては、価格決定プロセスの説明資料(議事録、メール、契約書のドラフト履歴など)があると非常に強いです。「第三者が関与した交渉」は、独立企業間原則を裏付ける強力な証拠になります。実際に私が立ち会った調査でも、内部のメールまで提示するように求められました。
4.税務調査(執行)時に検査を行う書類等
国税庁が移転価格調査において、国外関連取引の実態を的確に把握し、移転価格税制上の問題(独立企業間価格との乖離など)を判断するために検査・検討を行う主な書類等は以下の通りです。
調査は、質問検査権に関する規定に基づいて行われ、納税者が現に所持している書類だけでなく、必要に応じて国外関連者が保存する帳簿書類の提示・提出を求められることもあります。



税務調査が始まると国税当局からたくさんの資料の提出依頼がありますが納税者は自己の設定した移転価格の妥当性を主張すること、それから、納税者が国税当局の求めに応じて資料とを提出しなかった場合の比較対象企業への質問検査、そして、推定課税を防止するために、国税当局からの資料提出依頼に対して誠実に対応することが重要となります。
(1). 調査時に検討される基本書類
事務運営指針において、調査時に検討を行うものとして例示されている書類は以下の通りです。
- 法人及び国外関連者の事業内容を記載した書類
- 法人及び関連会社間の資本・取引関係図。
- 沿革及び主要株主の変遷。
- 有価証券報告書、計算書類、事業概況を記載した書類。
- 主な取扱品目、取引金額、販売市場の規模を記載した書類。
- 事業別の業績、事業の特色、各事業年度の特異事項。
- 国外関連取引の内容を記載した書類
- 資産の種類、役務の内容、当事者が果たす機能、契約条件、市場の状況、事業戦略等。
- 独立企業間価格を算定するための書類
- 選定した算定方法が最も適切である理由、比較対象取引の選定、差異調整の方法等を記載した書類。
- その他の書類
- 法人及び国外関連者の経理処理基準の詳細。
- 外国税務当局による国外関連者への移転価格調査の内容。
- 国外関連者が作成したローカルファイルに相当する書類。



こちらに記載したのはあくまでも基本書類となります。税務調査が進むにつれて先ほども申し上げた通り、メールや社内文書などさまざまな資料提供依頼を受けることがありますので、想定される資料については、あらかじめ整備しておくことをお勧めします。
(2). 移転価格文書(3層構造の文書)
BEPSプロジェクトの勧告に基づき導入された以下の書類は、リスク評価や詳細な調査の基礎として活用されます。
- ローカルファイル(個別業務に係る移転価格報告書)
特定の取引に関する詳細な財務情報、比較可能性分析、算定手法の適用結果を記載した書類です。調査において提示を求められた場合、45日以内の指定された期日までに提出する必要があります。 - マスターファイル(事業概況報告事項)
多国籍企業グループ全体の組織構造、事業の概要、財務状況などの「青写真」を記載した書類です。 - 国別報告書(CbCR)
グループの事業が行われる国ごとの収入金額、利益額、納付税額等の配分を記載した書類です。これ自体のみで独立企業間価格を算定することはできませんが、ハイレベルなリスク評価に使用されます。
(3). 特定の取引に関連する書類
取引の性質に応じて、さらに詳細な書類の検査が行われます。
- 役務提供(サービス)取引
役務が実際に行われたかを確認するため、請求書、計算明細書、業務日誌、作業日報、出張報告書などが検査されます。 - 費用分担契約(CCA)
参加者の名称、交渉の経緯、貢献価値額の算定方法、予測便益の算定根拠、異動状況の細目などを記載した書類が求められます。 - 無形資産取引
無形資産の種類、法的保護の状況、使用による期待収益、評価の前提となった予測利益の算出根拠などの検討が行われます。
(4). 書類が提出されない場合のリスク
税務当局の求めに対し、指定された期日までに「移転価格文書」の提示又は提出がない場合、税務署長は以下の措置を講じることができます。
- 推定課税
同種の事業者の利益率などを基に、独立企業間価格を推定して課税を行うこと。 - 同業者調査
当該法人と同種の事業を営む者に質問し、帳簿書類を検査すること。
調査官は、書類の量や内容、準備に通常要する日数を勘案して提出期限を指定します。



国税庁の調査担当者は、調査対象となる法人とその法人の国外関連者との間の取引に関する調査について、必要があるときは、その法人に対して、その国外関連者が保存する帳簿書類またその写しの提示または提出を求めることができるとされています。税務調査が長引かないためのコツとしては、税務調査が入る場合に、予め国外関連者にも情報共有しておくと資料提供がスムーズになることもあります。
5.移転価格課税にかかる更生期間等の延長
移転価格税制における更正期間(税務署長が所得の増減などを修正できる期間)や、それに関連する時効、書類の提出期限などは、通常の法人税の規定よりも長期間に設定されるなどの特例があります。
(1). 更正・決定の期間制限(除斥期間)
移転価格税制(国外関連者との取引)に基づく法人税の更正または決定は、原則として法定申告期限から7年を経過する日まで行うことができます。
- 通常の法人税との違い
一般的な法人税の更正期間は原則5年ですが、移転価格課税については調査に膨大な時間を要し、海外当局との情報交換も必要になることから、7年という長い期間が認められています。 - 地方法人税の連動
法人税の更正に伴って異動が生じる地方法人税についても、同様に7年間の期間制限が適用されます。
(2). 国税の徴収権の時効の特例
移転価格税制が適用される場合、国税を徴収する権利の時効(通常5年)についても特例があります。
- 進行の停止
国外関連取引の対価が独立企業間価格と異なることにより納付すべき税額が過少となった場合、その法人税や地方法人税の徴収権の時効は、法定納期限から2年間は進行しません。 - 目的
これは、移転価格調査の結果が出るまでに時間がかかることを考慮し、当局の徴収権が消滅してしまわないようにするための措置です。
(3). 更正請求の期間
納税者が、移転価格課税によって生じた二重課税を解消するために「更正の請求(税金の還付を求める手続き)」を行うことができる期間も、以下のように定められています。
- 7年への延長
移転価格税制の適用に関連して更正の請求をする場合、国税通則法の規定における「5年」という期間は、「7年」に読み替えられます。
(4). 特定無形資産(HTVI)に係る判定期間
評価困難な無形資産(HTVI:Hard-to-Value Intangibles)の譲渡等において、事後的な結果に基づき価格調整措置(更正)を行うかどうかの「判定期間」は、以下の通りです。
- 判定期間
特定無形資産の使用により非関連者収入が最初に生じた日を含む事業年度開始の日から、5年を経過する日までの期間を指します。 - 免除規定
この判定期間における実際利益が予測利益の120%を超えないことを証明する書類を提出した場合などは、判定期間経過後において価格調整措置は適用されません。
(5). 調査時における書類の提出期限
調査官から移転価格文書(ローカルファイル等)の提示・提出を求められた場合、以下の期限が設定されます。
- ローカルファイル:提示・提出を求めた日から45日以内。
- その他の重要書類:提示・提出を求めた日から60日以内。



これらは「45日(または60日)を超えない範囲内において調査官が指定する日」とされており、法人の意見を聴取した上で準備に要する日数が考慮されます。この期限までに提出がない場合は、推定課税(同業他社の利益率等に基づく課税)が行われるリスクが生じます。
(6). 書類の保存期間
移転価格に関する書類(ローカルファイル等)の保存期間は以下の通りです。
- 原則
確定申告期限の翌日から7年間。 - 例外(欠損金がある場合)
欠損金(赤字)が生じた事業年度に係る書類については、10年間の保存が必要です。



このように、移転価格税制の執行においては、取引の複雑性や国際的な調整を考慮し、更正期間や時効、書類保存などのあらゆる面で、通常の税制よりも長いスパンが設定されています。
6.まとめ
移転価格の税務調査は、独立企業原則に基づき取引実態を検証する一方で、文書化制度によって調査の進め方が大きく変わりました。
特に重要なのは、①取引実態(機能・リスク・契約・交渉過程)を説明できること、②ローカルファイル等の提出期限(同時文書化対象は45日、重要書類は60日が基本)を前提に、平時から資料を整備しておくこと、③二重課税が生じた場合にはAPAや相互協議などの選択肢も見据えて対応方針を持つことです。
移転価格は“唯一の正解”を導く世界ではありませんが、だからこそ、説明の筋道と証拠の積み上げが結果を左右します。期限が動き出す前に、グループ内で情報共有と文書化の体制を整えておくことが、調査対応を最短で終わらせ、不要な争いを避ける最も確実な方法です。










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