ミミレイドンボス、おはようございます!
昨日は移転価格税制への対応に必要な書類について、取り上げていただきありがとうございました!今朝はどのようなテーマでしょうか?



今朝は税務当局への事前確認について、整理していこうと思います。



今までの記事内でも何度か出てきた事前確認ですね。確かに、詳しく知りたいと思っていました。



「将来の移転価格について、あらかじめ税務当局のお墨付きを得ることができる制度がある」と聞くと、理想的な制度のように感じられるかもしれません。
移転価格税制は、結果論で判断されやすく、事後的な調査によって
多額の追徴課税や二重課税リスクが生じる分野です。こうした不確実性を事前に取り除くために用意されているのが、「事前確認(APA:Advance Pricing Arrangement)」制度です。今朝は、移転価格事前確認制度について、その意義、手続の流れ、必要資料、法的効果、実務上の留意点などを整理していきたいと思います。



移転価格税制の①制度の概要編、②独立企業間価格の算定編、③比較対象取引の選定編、④移転価格税制の税務調査(執行)編、⑤同時文書化(ローカルファイルの作成)編、⑥独立企業間価格の算定のために必要な書類編については、こちらの記事で解説しておりますので、宜しければご覧ください。
【町田市の税理士が解説】移転価格税制とは?①制度の概要編
【町田市の税理士が解説】移転価格税制とは?②独立企業間価格の算定編
【町田市の税理士が解説】移転価格税制とは?③比較対象取引の選定編
【町田市の税理士が解説】移転価格税制とは?④移転価格税制の税務調査(執行)編
【町田市の税理士が解説】移転価格税制とは?⑤同時文書化(ローカルファイルの作成)編
【町田市の税理士が解説】移転価格税制とは?⑥独立企業間価格の算定のために必要な書類編
【事前確認編】
1.事前確認の意義
移転価格税制における事前確認(APA:Advance Pricing Arrangement)制度は、納税者が将来行う国外関連取引について、独立企業間価格の算定方法等(手法、比較対象取引、調整、前提条件等)を事前に税務当局へ申し出、その承認を受ける制度です。
この制度の主な意義は、以下の4点に集約されます。
(1). 予測可能性と法的安定性の確保
事前確認の最大の意義は、納税者が将来の取引に関する税務上の取扱いの予測可能性を高め、不確実性を排除できる点にあります。
- 当局から確認を受けた内容に適合した申告を行っている限り、その取引は独立企業間価格で行われたものとして取り扱われ、移転価格課税をされることはありません。
- これにより、納税者は将来の租税債務を正確に予測できるようになり、より良い投資・事業環境を享受できます。
(2). 国際的な二重課税の回避
特に二国間(または多国間)の事前確認において極めて重要な意義を持ちます。
- 日本だけでなく相手国の税務当局とも相互協議を通じて合意することで、双方の国で整合的な移転価格設定が認められます。
- これにより、同一の所得に対して両国から課税される経済的・法的な二重課税のリスクを実質的に排除できます。
(3). 移転価格紛争の未然防止とコスト削減
事後的な調査による紛争を回避し、膨大なリソースの浪費を防ぐことができます。
- 移転価格の調査や訴訟は非常に複雑で、解決までに多くの時間とコスト(人的リソースや金銭的負担)を要します。
- 事前確認は、こうした大規模な事案の調査や訴訟に伴うコストと時間の浪費を避けるための有効な手段となります。
(4). 非対立的な協力関係の構築
調査のような対立的な関係ではなく、当局と納税者が協力して適切な解決策を模索する機会を提供します。
- 非対立的な雰囲気と環境の下で話し合いが行われるため、情報の流れがスムーズになり、事実関係の客観的な審査が可能になります。
- また、当局にとっても多国籍企業の複雑な国際取引に関する知識(グローバル・トレーディングや特定の産業データなど)を深める機会となります。



このように、事前確認制度は納税者にとっては「税務上の確実性」を、税務当局にとっては「効率的な執行と紛争の防止」をもたらす、極めて合理的な仕組みであると位置付けられています。
2.事前確認の流れ
移転価格税制における事前確認(APA:Advance Pricing Arrangement)は、納税者が自ら申し出た独立企業間価格の算定方法等について税務当局が事前に審査を行い、合意に達した場合にはその内容に適合した申告を認める制度です。
事前確認の一般的な流れについて詳しく解説します。
(1). 事前相談(Pre-filing Consultation)
正式な申出を行う前に、納税者は税務当局(国税局の担当課など)に対して事前相談を行うことができます。
- 目的
申出の内容が事前確認に適しているか、必要とされる情報の範囲、算定手法の適切性などについて事前に協議し、手続きを円滑に進めるためです。 - 特徴
必要に応じて、代理人を通じた匿名での相談も認められています。
(2). 事前確認の申出(APA Application)
納税者は、所定の書類を税務署長等に提出して正式に申出を行います。
- 提出期限
原則として、事前確認を受けようとする最初の事業年度の開始の日の前日までに提出する必要があります。 - 提出書類
「独立企業間価格の算定方法等の確認に関する申出書」を提出します。 - 添付資料
取引内容の説明、機能・リスク分析、算定手法の合理性の説明、重要な前提条件(市場状況、為替レートなどの前提)、過去3事業年度の財務状況などの詳細な資料を添付します。
(3). 事前確認審査(Examination)
申出を受けた後、国税局等の担当部署が審査を行います。
- 内容
提出資料の検討に加え、必要に応じて質問、施設への訪問、追加資料の要請などが行われます。 - 協力義務
事前確認は納税者の任意の申出に基づく制度であるため、審査を迅速に進めるためには納税者の全面的な協力が不可欠です。
(4). 相互協議(MAP:Mutual Agreement Procedure)
二国間APA(バイラテラルAPA)を希望する場合、日本の税務当局と国外関連者が所在する国の税務当局との間で相互協議が行われます。
- 目的
二国間の当局が合意に達することで、国際的な二重課税を完全に回避するためです。 - 特徴
当局間での合意形成には時間を要する場合が多いですが、合意が得られれば両国での課税の安定性が確保されます。
(5). 通知および確認(Notification)
審査(および相互協議)の結果、算定方法等が適切であると認められた場合、税務署長等から「独立企業間価格の算定方法等の確認通知書」が交付されます。
- 承認されない場合には、その理由を記載した通知書が交付されます。
- 承認後、納税者がその内容を了承することで事前確認が成立します。
(6). 事前確認の効果と報告(Follow-up)
- 課税の停止
確認を受けた法人が確認内容に適合した申告を行っている限り、その取引について移転価格課税はなされません。 - 報告書の提出
事前確認を受けた法人は、毎年の確定申告期限までに、確認内容の遵守状況や重要な前提条件に変動がないかを記載した報告書を提出する義務があります。 - 条件の変更
重要な前提条件(市場の劇的な変化など)に重大な変動が生じた場合には、確認内容の改定や取り消しが必要になることがあります。



確認内容に適合した申告が行われている限り、当該取引は独立企業間価格で行われたものとして取り扱われ、移転価格税制に基づく更正等は行われません。
事前確認制度は、調査による事後的なリスクを排除し、多国籍企業の国際取引における法的安定性と予見可能性を高めるための重要な手続きなのです。
3.事前確認の申し出
移転価格税制における事前確認(APA)の申出とは、納税者が将来行う国外関連取引に係る独立企業間価格の算定方法等について、税務署長等へ事前に確認を求める手続きを指します。
「移転価格事務運営要領」や関連資料に基づき、申出の手続きや必要書類について詳述します。
(1). 申出の期限と提出先
- 申出期限
確認を受けようとする期間(確認対象事業年度)のうち、最初の事業年度の開始の日までに提出する必要があります。 - 提出先
納税地の所轄税務署長等(国税局の調査課が所管する法人の場合は国税局長)へ提出します。 - 提出部数
法人の区分や相互協議の有無により異なりますが、原則として1部から4部を提出します(例:相互協議を求める調査課所管外の法人は4部)。
(2). 確認対象事業年度
- 事前確認の対象となる期間は、原則として3事業年度から5事業年度とされています。
(3). 事前相談の活用
- 正式な申出を行う前に、独立企業間価格の算定方法等について当局の担当者と話し合う「事前相談」を行うことが推奨されています。
- 事前相談を行うことで、申出書の記載内容や必要資料の範囲をあらかじめ明確にでき、その後の審査を効率的かつ迅速に進めることが可能になります。
(4). 申出の効果と留意点
- 課税の免除
事前確認を受けた法人がその内容に適合した申告を行っている限り、その取引は独立企業間価格で行われたものとして取り扱われ、移転価格課税は行われません。 - 報告書の提出
確認を受けた法人は、確認内容を遵守していることを説明する報告書を毎年提出する義務があります。 - 過去年度への準用(ロールバック)
相互協議を伴う事前確認の場合、合意された算定方法を確認対象期間より前の年度にも遡って適用できる場合があります。



事前確認の申出は納税者の任意ですが、当局は二重課税の回避や予測可能性の確保のために、特に相互協議を伴う二国間の事前確認を推奨しています。
4.事前確認の資料の添付
移転価格税制における事前確認(APA)の申出にあたっては、「独立企業間価格の算定方法等の確認に関する申出書」に、その算定方法の合理性を立証するための多角的な資料を添付する必要があります。
主な添付資料の内容と留意点は以下の通りです。
(1). 申出書に添付すべき主な資料(11項目)
税務当局は、確認申出法人に対し、以下の資料の添付を求めています。
- 取引の内容・流れ
確認対象取引の具体的な内容、商流、およびその詳細を記載した資料。 - 事業内容・組織概要
法人および国外関連者の事業内容、組織図、グループ内の役割等を記載した資料。 - 機能・リスク分析
各当事者が果たしている機能、負担しているリスク、および使用している資産(有形・無形)に関する詳細な資料。 - 算定方法の合理性
選定した算定方法が独立企業原則に基づき「最も適切」である理由を説明した資料。 - 重要な前提条件
事前確認を継続する上で前提となる、事業上または経済上の諸条件(為替レートの大幅な変動がないこと、市場シェアの維持など)に関する資料。 - 資本関係
国外関連者との直接・間接の資本関係、または実質的な支配関係を示す資料。 - 過去3事業年度の財務状況
直近3年間の営業・経理の状況を明らかにする資料(新規事業の場合は将来の計画資料)。 - 他国の課税・調査状況
国外関連者の所在国での移転価格調査、不服申立て、訴訟等の状況を記載した資料。 - 適用のシミュレーション
申し出た算定方法を、直近3事業年度に適用した場合に算出される結果を説明する資料。 - グループの概要(相互協議を伴わない場合)
最終親会社等や、法人を直接支配する親会社の名称、所在地等の資料。 - その他必要な資料
個別の事案に応じて当局が審査に必要と認めるもの。
(2). 資料作成・提出における留意事項
- 財務データの期間
原則として過去3事業年度分が必要ですが、製品のライフサイクル等が長い場合は、追加で過去5事業年度分までの資料提出を求められることがあります。 - 翻訳文の添付
添付資料が外国語で記載されている場合には、日本語による翻訳文を添付する必要があります。 - ローカルファイルとの関係
事前確認を受けている取引については、申出書や添付資料、審査中に提出した書類がローカルファイルの役割を果たすため、当該取引については、別途ローカルファイルを新規に作成・保存する義務は履行されているものとみなされます。 - 重要な前提条件の重要性
予測できない大きな経済状況の変化(市場価格の急変など)に備え、確認を継続するための条件をあらかじめ定めておく必要があり、そのための根拠資料も申出書に含めます。



事前確認は将来の利益を予測する制度であるため、特に「重要な前提条件」や「機能・リスク分析」の資料が、確認の法的安定性を確保する上で極めて重要となります。
5.事前確認対象事業年度
移転価格税制における事前確認(APA)の対象となる事業年度(確認対象事業年度)については、以下の通り定められています。
(1). 原則的な対象期間
事前確認の対象となる期間は、原則として3事業年度から5事業年度とされています。
この期間設定は、納税者に税務上の一定の確実性を与えるために十分な長さが必要である一方、あまりに長期にわたると将来の予測の信頼性が低下するという、相反する目標のバランスを考慮して決定されます。実際の適用期間は、個別の事案ごとに、産業の特性や取引の内容、経済情勢などを踏まえて税務当局間で協議されます。
(2). 対象となる年度の性質
- 将来の年度
事前確認はその性質上、原則として将来行われる取引に対して適用されます。 - 申出のタイミング
事前確認の申出は、原則として確認を受けようとする最初の事業年度の開始の日までに行う必要があります。
(3). 過去の年度への遡及適用(ロールバック)
事前確認で合意された算定手法を、確認対象期間よりも前の過去の事業年度についても適用できる場合があり、これを「ロールバック」と呼びます。
- 適用の要件: 二国間の事前確認(バイラテラルAPA)において、過去の事業年度の事実関係や状況が確認対象期間と同様であると判断される場合、かつ国内法上の更正の除斥期間(時効)が経過していない場合に認められます。
- 効果: これにより、過去の申告済みの年度についても移転価格に関する不確実性を解消し、二重課税のリスクを軽減することが可能になります。
(4). 期間中の留意事項
- 調査との関係: 事前確認の手続きが行われている間、その対象となる国外関連取引については調査が行われません。
- 継続の条件: 設定された「重要な前提条件」が満たされている限り、確認の効果は持続します。市場環境の劇的な変化などにより前提が崩れた場合には、確認期間内であっても改定や取り消しの対象となることがあります。



このように、事前確認制度は将来の3〜5年間の法的安定性を確保することを主眼としつつ、実態に応じて過去の年度へもその効果を広げることができる柔軟な仕組みとなっています。
6.事前相談
移転価格税制における事前相談(Advance Consultation)とは、法人が事前確認(APA)の申出を行う前に、独立企業間価格の算定方法等について税務当局の担当部署と事前に行う協議を指します。
事前相談の主な目的や内容、手続きの詳細は以下の通りです。
(1). 事前相談の目的と意義
- 事務の効率化
法人が申出書や添付資料を適切に作成できるよう支援するとともに、税務当局側も申出内容を早期に理解することで、その後の事前確認審査を効率的かつ迅速に進めることを目的としています。 - 予見可能性の向上
申出の内容が事前確認に適しているか、また採用しようとする算定手法の妥当性などについて、正式な申出前に当局の見解を確認できる貴重な機会となります。 - 申出の勧奨
事前相談を行わずに事前確認の申出をした場合、税務署長等から「相談を行った上で再度申し出るよう」指導を受けることがあります。
(2). 相談の対象事項
事前相談では、主に以下の事項について協議が行われます。
- 算定方法等の検討
独立企業間価格の算定手法、比較対象取引の選定、および必要な差異調整の範囲。 - 資料の範囲
申出書に添付すべき資料の具体的な内容や作成要領。 - 手続きの確認
事前確認の手続きを成功させるために必要な分析の範囲や、提出期限などのスケジュール。 - 秘密保持
データの開示範囲や機密保持に関する懸念事項の相談。
(3). 実施方法と特徴
- 相談先
納税地の所轄国税局の担当課(局担当課)が対応します。事案に応じて国税庁の担当課や庁相互協議室(相互協議を伴う場合)も加わります。 - 匿名相談の認容
代理人(税理士等)を通じた匿名の相談も認められています。ただし、相談を有意義なものにするためには、実名を伏せていても業務実態に関する十分な情報提供が必要です。 - 回数と形式
非公式な協議から公式なものまで、内容に応じて複数回行われることもあります。 - 調査との関係
過去の事業年度について移転価格調査が継続している間でも事前相談を行うことは可能ですが、調査終了後に申出内容の修正が必要になる場合があります。
(4). 当局からの説明事項
相談の結果、当局は以下の判断を確認申出法人に伝えることがあります。
- 事前確認が困難な場合
取引に経済的な合理性が認められない、あるいは法令に抵触する恐れがあるなど、事前確認を行うことが適当でないと判断される場合。 - 保留となる場合
関連する更正処分について不服申立て中である場合や、国外関連者が相手国当局へ申出を行っていない場合などは、手続きが保留される旨が説明されます。



事前相談を活用することで、納税者は不必要な作業(不適切な算定手法による資料作成など)を避けることができ、当局との円滑な合意形成に向けた基盤を築くことができます。
7.事前確認審査の結果
事前確認(APA)審査の結果、税務当局から出される通知やその後の取扱いについては、以下の通りです。
(1). 審査結果の通知
事前確認の審査が終了すると、その内容に応じて以下のいずれかの通知書が、所轄税務署長等から確認申出法人に対して交付されます。
- 「独立企業間価格の算定方法等の確認通知書」の交付(承認)
申し出た算定方法等が適切であると認められた場合、あるいは当局の指導に基づき修正された内容で合意に達した場合に交付されます。これにより、対象取引は独立企業間価格で行われたものとして取り扱われます。 - 「独立企業間価格の算定方法等の確認ができない旨の通知書」の交付(不承認)
申し出た方法が「最も適切」であると認められず、法人が修正に応じない場合、あるいは審査に必要な資料が提出されないなどの理由で事前確認が困難と判断された場合に交付されます。この際、当局は確認できない理由を簡潔かつ具体的に記載して通知します。
(2). 相互協議を伴う場合(二国間APA)の結果
相手国との相互協議が行われる事案では、協議の結果が審査結果を左右します。
- 相互協議で合意に達した場合
当局間での合意内容に従い、必要に応じて申出内容を修正した上で、確認通知書が交付されます。 - 相互協議で合意に至らなかった場合
当局から合意に至らなかった旨が通知されます。この場合、法人は「申出を取り下げる」か、あるいは相手国の確認を伴わない「日本側だけの確認(ユニラテラルAPA)」を求めるかを選択することになります。
(3). 確認の内容と範囲(ポイントとレンジ)
事前確認審査の結果として示される「独立企業間価格」は、特定の数値(ポイント)だけでなく、「一定の範囲(レンジ)」として確認される場合があります。
- これは事前確認が将来の利益を予測するものであるため、納税者の予測可能性を確保する観点から認められています。
- ただし、相互協議を伴わない日本のみの事前確認の場合、検証対象が自社か国外関連者かに応じて、設定された範囲の上限または下限のみを用いて確認を行うことになります。
(4). 審査終了後の取扱いと法的安定性
- 修正申告の扱い
確認通知があった時点で既に経過している事業年度について、申告内容を事前確認の内容に適合させるために行う修正申告は、原則として過少申告加算税の対象となる「更正を予知してされたもの」には該当しません。 - 調査の免除
事前確認の内容に適合した申告を行っている限り、確認対象事業年度のその取引については、移転価格に関する調査の対象とはなりません。 - 報告義務
承認を受けた法人は、確認内容を遵守していることを証明するために、毎年報告書を提出する必要があります。



このように、事前確認審査の結果は「承認(通知書)」という形で法的安定性を与えるものですが、合意に至らない場合や重要な前提条件が守られない場合には、申出の却下や後の取消しの対象となることもあります。
8.事前確認の効果
移転価格税制における事前確認(APA)を受けることで得られる主な効果は、独立企業間価格としての取扱いが認められることによる「法的安定性の確保」と、事後的な調査リスクの排除による「予見可能性の向上」です。
具体的な効果を以下の5つのポイントで解説します。
(1). 独立企業間価格としての取扱い
事前確認を受けた法人が、確認対象期間において確認内容に適合した申告を行っている場合には、その取引は独立企業間価格で行われたものとして取り扱われます。これにより、その取引について移転価格課税を受けるリスクを排除できます。
(2). 移転価格調査の免除
- 確認期間中の調査免除
事前確認の申出から通知が行われるまでの間、確認対象事業年度の取引に係る独立企業間価格の算定方法等は、調査の対象とはなりません。 - 確認後のモニタリング
合意成立後は、税務当局は法人が確認条件を遵守しているかを確認するための調査(年次報告書の審査等)に限定し、算定手法そのものを再調査することはありません。



確認対象取引については、事前確認手続が進行している間、当該算定方法等そのものを調査の対象としない運用上の配慮がなされるのが通常です。
もっとも、これは法令上の調査免除を保証するものではありません。
(3). 過少申告加算税の不適用
事前確認の通知があった時点で、既に申告期限が経過している事業年度がある場合、その申告内容を確認内容に適合させるために自主的に行う修正申告については、国税通則法上の「更正があるべきことを予知してされたもの」には該当しないものとされます。 したがって、原則として過少申告加算税は課されません。これは、調査通知後であっても、事前確認の審査結果や相互協議の合意内容に基づいて提出された修正申告であれば、同様の扱いとなります。
(4). 予見可能性と法的安定性の確保
事前確認は、国際取引に関する税務上の取扱いの不確実性を排除し、納税者の予見可能性(予測可能性)を高めます。
- 納税者は将来の租税債務を正確に予測できるようになり、これが投資に対するより良い税務環境の提供につながります。
- 二国間(バイラテラル)APAの場合には、相手国の税務当局とも合意するため、国際的な二重課税を確実に回避することが可能になります。
(5). 紛争回避とコスト・時間の削減
事後的な移転価格調査やそれに伴う訴訟は、解決までに膨大な時間と人的・金銭的コストを要します。事前確認を利用することで、こうした大規模な紛争を未然に防止し、納税者と税務当局双方のリソースを節約できるという効果があります。



これらの効果を維持するためには、法人は毎年、確認内容の遵守状況を記載した報告書を提出し、設定された「重要な前提条件」が満たされていることを証明する必要があります。報告書については、次の章で解説します。
9.報告書の提出
事前確認(APA)の承認を受けた法人は、その確認内容を遵守していることを証明するために、毎事業年度、税務当局に対して報告書を提出する義務があります。
報告書の概要、提出期限、記載事項、および提出しなかった際のリスクについて解説します。
(1). 報告書の概要と目的
事前確認の通知を受けた法人(確認法人)は、確認対象となる各事業年度(確認事業年度)において、実際に独立企業間価格の算定方法等が遵守されているかを確認するため、「独立企業間価格の算定方法等の確認に関する報告書」を作成・提出しなければなりません。 この報告書は、税務当局が法人のコンプライアンス状況をモニタリングし、設定された重要な前提条件が引き続き有効であるかを確認するための重要な手段となります。
(2). 提出期限と提出先
- 提出期限
原則として、各確認事業年度の確定申告書の提出期限までです。ただし、所轄税務署長等があらかじめ定める期限がある場合は、その日までに提出します。 - 提出先
納税地の所轄税務署長等に提出します。 - 提出部数
局調査課が所管する法人は1部、それ以外の法人は3部を提出する必要があります。
(3). 報告書に記載・添付すべき事項
報告書には、主に以下の事項を記載し、関連する資料を添付しなければなりません。
- 適合性の説明
確認法人が確認取引について、事前確認の内容に適合した申告を行っていることの説明。 - 損益の明細
確認法人および国外関連者の、確認取引に係る損益の明細およびその計算過程(当局が必要と認める場合に限る)。 - 重要な前提条件の変動
事前確認の前提となった重要な事業上または経済上の諸条件(為替レートの変動など)に変動があったかどうかの説明。 - 対価の額の調整(補償調整)
取引結果が確認内容に適合しなかった場合に行った、対価の額の調整に関する説明。 - 財務状況
確認法人および国外関連者の財務状況を示す資料。 - その他参考事項
その他、事前確認に適合した申告が行われているかを検討する上で参考となる事項。
(4). 報告書を提出しなかった場合等のリスク
報告書の提出を怠ったり、不適切な対応をしたりした場合には、以下の厳しい措置が取られる可能性があります。
- 事前確認の取消し
報告書を期限までに提出しなかった場合、あるいは報告書に重大な誤りがあった場合には、その事実が発生した事業年度以後の事前確認が取り消されることがあります。 - APAの遡及的取消し
提出された情報に不正や偽りがあった場合、事前確認が過去に遡って取り消されるリスクもあります。 - ローカルファイル作成義務の復活
事前確認を受けている取引は、この報告書等の提出をもってローカルファイルの作成・保存義務を果たしているとみなされますが、APAが維持されない場合は別途書類の整備が必要となります。



事前確認制度は、この年次報告を通じて透明性を維持することで、将来にわたる移転価格課税のリスクを排除し、法的安定性を確保する仕組みとなっています。
10.事前確認の更新
事前確認(APA)の更新(Renewal)とは、現在適用を受けている事前確認の期間終了後も、引き続きその内容を継続、あるいは見直した上で新たな期間について確認を受ける手続きです。
更新の申出期限、手続き、および留意点について解説します。
(1). 更新の申出期限と提出先
- 申出期限
原則として、更新後の最初の確認対象事業年度が開始する日の前日までに申し出る必要があります。 - 提出先
法人の納税地の所轄税務署長等(または国税局長)に提出します。 - 早期着手の推奨
OECDガイドラインでは、現行のAPAが失効する前に、税務当局が検討や評価を行い合意に到達するための十分な準備期間を考慮して、余裕を持ってプロセスを開始することが有益であるとしています。
(2). 手続きの規定
事前確認の更新に関する事務運営は、新規の申出と同様のルールが準用されます。
- 適用の指針
日本の「移転価格事務運営要領」では、更新の申出があった場合には、新規の申出から通知、報告書の提出、取消し等に至るまでの一連の規定(6-1から6-21まで)に準じて処理を行うこととされています。 - 二国間APAの場合
相互協議を伴う更新には、両国の税務当局間での新たな合意が必要となります。
(3). 更新手続きの特徴と効率性
更新はゼロからの審査ではないため、通常、新規の申出よりも効率的に進む傾向があります。
- 審査の焦点
更新手続きは、これまでの事実関係、事業・経済状況、および計算結果を最新の状態にアップデート(調整)することに主眼が置かれます。 - 資料の簡素化
事案の事実や状況に実質的な変化がない場合には、当局との合意により、提出すべき資料の詳細さを軽減(簡素化)できる可能性があります。 - 所要時間
一般的に、APAの更新は当初の手続きと比較して時間はかからないとされています。
(4). 更新が認められるための条件
更新は自動的に行われるものではなく、以下の点が重要視されます。
- コンプライアンスの遵守
納税者が現行の事前確認の条件を遵守しているか否かが、更新を認めるかどうかの判断において極めて重要です。 - 算定方法の変更
更新の際、独立企業原則に基づき、算定手法や条件が従来のAPAとは異なる内容になることもあり得ます。 - 全当事者の同意
更新を成立させるには、関係する全ての当事者(納税者および各国の税務当局)の同意が必要です。



事前確認の更新は、将来の数年間にわたる法的安定性を低コストで維持するための有効な手段です。もし具体的な更新申出書の記載内容や、審査におけるポイントについての詳細なレポートが必要であれば、追加で作成を提案することも可能です。
11.まとめ
移転価格税制における事前確認(APA)制度は、将来の国外関連取引について独立企業間価格の算定方法等を事前に確定させることで、税務上の不確実性や国際的な二重課税リスクを大幅に低減できる制度です。もっとも、APAは単なる「申請すれば安心」という制度ではなく、詳細な機能・リスク分析、合理的な算定手法の選定、そして継続的な報告義務の履行が前提となります。また、その法的効果や調査との関係についても、制度の性質を正しく理解した上で活用することが不可欠です。自社の取引内容や事業環境に照らしてAPAの適否を慎重に検討し、必要に応じて専門家と連携しながら活用することで、移転価格税制における長期的な法的安定性を確保する有効な手段となるでしょう。










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