ミミレイドンボス、令和7年度改正に伴って変更となった税金に関する年収の壁については、理解できたのですが、社会保険の壁がよくわかりません。税理士事務所なので社会保険の壁は無視してもいいでしょうか?



いえいえ、税理士として、節税アドバイスする際に社会保険の知識も必須です。節税対策をして税金は安くなったのに社会保険料が増加したため、トータルでは支払うお金が増えてしまうこともあります。
本日は、そんな社会保険に関する年収の壁について、解説していきます。特に2025年10月から変更になった点もありますので、この最新情報を知っているかどうかが、あなたの世帯収入を大きく左右します。
この記事では、社会保険に特化し、複雑に絡み合う「年収の壁」の最新ルールを、初心者の方にもスッキリと理解できるように解説します。
税金の壁を知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
【町田市の税理士が解説】年末調整シリーズ第5回: 年末調整前に知りたい、新年収の壁!!令和7年度税制改正の影響で大混乱確実!
1. はじめに(社会保険の壁とは?)
社会保険の壁とは?
「年収の壁」とは、パートやアルバイトなどの年間収入が一定額を超えた場合に、「税金や社会保険料の負担が生じたり、配偶者などの扶養から外れたりする境目」のことを指します。
年収の壁には、所得税・住民税に関わるものと、健康保険・厚生年金保険(社会保険)に関わるものがありますが、特に手取り額に大きな影響を与えるのが「社会保険の壁」です。
社会保険の扶養に入っている場合、通常は自分で保険料を支払う必要がありません。
しかし、年収が一定額を超えると扶養から外れ、自分で健康保険料と厚生年金保険料を負担する義務が生じます。
その結果、収入が増えたにもかかわらず、保険料負担によって一時的に手取りが減少してしまう現象が起こります。これが「社会保険の壁」と呼ばれる理由です。
なお、社会保険には、主に「健康保険(医療費の保障)」、「厚生年金保険(老後の生活保障)」、「労災保険」、「雇用保険」の4種類がありますが、「年収の壁」に関係するのは、主に健康保険と厚生年金保険です。
社会保険の壁を越えた場合の影響
(1) デメリット:なぜ「働き損」になるのか?
社会保険の壁を超えた場合の最大のデメリットは、何と言っても手取り収入の一時的な減少です。
1. 社会保険料の自己負担が発生する
例えば、年収106万円以内であれば社会保険料は発生しないため、税金(年収106万であれば、一般的には所得税と住民税も課税されない範囲)を除いた金額が手取りとなります。しかし、壁を超えると社会保険料が発生し、差し引かれる社会保険料の分だけ手取り額が少なくなります。
2. 手取り額の逆転現象
社会保険の壁を少し超えた場合であっても、社会保険料の負担は年間で15万円~20万円と高額になる場合があります。そのため、壁を少し超えて働くと、社会保険料を支払う必要がない年収帯で働いていた時よりも、かえって手取り額が減ってしまう「手取り額の逆転」が生じます。これが「働き損」と言われる所以です。
3. 労働時間が増える可能性
これまでと同じ手取り額を維持しようとすると、社会保険料の負担分をカバーするために、結果として労働時間が長くなってしまう可能性があります。育児や介護などの事情で労働時間を制限してきた方にとっては、私生活に影響が出るかもしれません。
4. 配偶者手当の支給停止リスク
企業が独自に支給する配偶者手当や家族手当は、配偶者の収入に要件がある場合が多く、壁を超えたことでこれらの手当が支給されなくなることで、世帯全体の手取りが減少するケースもあります。
(2) メリット:壁を超えた人に与えられる「安心」という名の大きなリターン
デメリットばかりに目が向きがちですが、社会保険に加入することは、長期的な視点で見るとメリットもあります。一時的な手取りの減少と引き換えに、充実した公的な保障を受けられるようになるのです。
1. 将来受け取れる年金が大幅に増える
扶養内で働いている場合、将来の公的年金は国民年金(老齢基礎年金)のみです。しかし、厚生年金に加入すると、国民年金に上乗せされる「2階建て」の年金(老齢厚生年金)が受給できるようになります。保険料を多く長く払うほど将来の受給額は増加し、厚生労働省の試算では、生涯受給額で数百万円の差が生じるとされています。
2. 病気やケガ、出産時の保障が手厚くなる
健康保険に加入することで、万が一の際の保障が充実します。
傷病手当金: 業務外の病気やケガで会社を休んだ際、通算1年6ヶ月にわたり給与の約3分の2が支給されます。
出産手当金: 出産のために会社を休んだ場合、給与の約3分の2が出産前42日から出産後56日までの期間にわたって受け取れます。 扶養内で働いている場合、これらの手当金は受け取ることができません。
3. 万が一の保障も強化される
厚生年金に加入することで、所定の障害を負った場合には障害厚生年金、加入者が亡くなった場合には遺された家族に遺族厚生年金が支払われます。これにより、加入していない場合よりも手厚い保障が得られます。
4. 働き方の選択肢とキャリアアップの機会が広がる
年収の制限を気にせず働けるようになるため、労働時間を増やして収入を上げたり、キャリアアップやスキル向上を目指したりする機会が広がります。企業側にとっても、長時間勤務可能な人材の確保につながります。
(3) 壁を超えた場合の具体的な社会保険料の負担額と損益分岐点
手取りの逆転現象を防ぎ、「働き損」にならないためには、社会保険料の負担額を上回るだけの収入を確保する必要があります。社会保険料の負担額は、年齢や居住地域、加入する保険の種類(勤務先の社会保険か、国民年金・国民健康保険か)によって異なりますが、ここでは一般的な目安と、手取りを減らさないための目標年収を見てみましょう。
106万円の壁を超えた場合(勤務先の社会保険に加入)
106万円の壁は、勤務先の規模(従業員数が常時51人以上など)や労働時間(週20時間以上)などの要件を満たした場合に、健康保険と厚生年金保険への加入義務が発生する境目です。
| 月額給与(額面) | 年収換算 | 社会保険料合計(月額) | 手取り額 |
|---|---|---|---|
| 80,000円 | 96万円 | 0円 | 80,000円 |
| 90,000円 | 108万円 | 12,412円 | 77,588円 |
月収が8万円から9万円に1万円増えたにもかかわらず、社会保険料12,412円が発生した結果、手取り額は2,412円減少してしまいます。この手取り額の減少を取り戻すためには、年収をある程度まで引き上げる必要があります。106万円の壁を超えても手取りが減らない目安はおよそ125万円以上といわれております。具体的な数値でお示しすると、年収が105万円で働いた場合の手取り額(約104.5万円)を維持するためには、社会保険に加入した後、給与収入を約124万3,000円にする必要があると試算されています。この水準を超えれば、手取りの逆転を防ぐことができます。



えっ、働き損とならないためには年収124.3万円も必要なの!?年収を扶養内の105万円から約19万円も増やしてるのに、社会保険に加入することで、年収105万円の手取りが一緒なんて辛い、、、何のために頑張って働いてるんだ~それは壁を超えないほうが良いですね!
130万円の壁を超えた場合(国民年金・国民健康保険などに加入)
130万円の壁は、主として配偶者の社会保険の扶養から外れる境目です。106万円の壁の加入条件を満たさない場合でも、年収130万円以上になると、自分で国民年金と国民健康保険の保険料を支払う義務が発生します。
130万円の壁を判断する際の収入計算には、基本給だけでなく、交通費、残業代、賞与なども含まれる点に注意が必要です(106万円の壁の月収8.8万円の判断では、交通費や残業手当、賞与は含まれません)。
| 対応 | 壁を超えても手取りが減らない目安(130万円の壁) |
|---|---|
| 勤務先の社会保険に加入する場合 | およそ150万円以上 |
年収129万円で働いた場合の手取り額(約126.4万円)を維持するためには、社会保険に加入した後、給与収入を約148万2,000円にする必要があると試算されています。
特に、130万円の壁を超えて国民健康保険に加入する場合、企業との保険料の折半がないため、勤務先の社会保険に加入する場合と比べて支払い負担が大きくなる傾向があります。そのため、より高い年収を目指すことが推奨されます。
2. これまでの社会保険の壁
社会保険の扶養から外れる代表的な壁として、「106万円の壁」と「130万円の壁」があります。
106万円の壁
「106万円の壁」は、特定の企業で働く場合に適用される、社会保険への加入義務が生じる分岐点です。
これは、特定適用事業所(厚生年金保険の被保険者数が51人以上の事業所など)で働いている方が対象です。
以下のすべての条件を満たす場合、年収が約106万円以上(月額賃金88,000円以上)で社会保険上の扶養から外れ、勤務先の社会保険への加入が義務付けられます。
106万円の壁の適用条件(2025年9月時点)
| 1. 週の所定労働時間が20時間以上 |
| 2. 月額賃金が88,000円以上(年収換算で約106万円以上) |
| 3. 雇用期間の見込みが2か月以上 |
| 4. 学生ではない |
【重要】今後の動向
106万円の壁の適用対象は、今後さらに拡大される予定です。対象となる企業の従業員数要件は段階的に引き下げられ、最終的には撤廃される見通しです(2035年10月以降)。
また、一時的な収入増加に対応するため、「年収の壁・支援強化パッケージ」が設けられており、事業主が「一時的な増収である」ことを証明したり、手当を支給したりした場合に支援が受けられる仕組みもあります。
130万円の壁
「130万円の壁」は、106万円の壁の条件(特定適用事業所の従業員数要件など)を満たさない場合でも適用される一般的な扶養の壁です。
以下のいずれかに該当すると、社会保険上の扶養から外れ、自分で国民健康保険と国民年金(第1号被保険者)に加入し、保険料を支払う義務が発生します。
社会保険上の扶養から外れる条件
1. 年収が130万円以上となる場合。
2. 労働時間・日数が正社員の4分の3以上となる場合。
例外
認定対象者が60歳以上の方、または概ね障害厚生年金の受給要件に該当する程度の障害者の場合は、年間収入180万円未満が要件となります。
3. 新設された「150万円の壁」とは?
ここが2025年における最大のニュースです!
2025年の税制改正をきっかけとして、社会保険の扶養認定基準に新たなルールが設けられました。これが「150万円の壁」です。
この「150万円の壁」は、特定の年齢層に限定された、年間収入要件の緩和措置です。
| 変更前(現行のルール) | 変更後(新設のルール) |
|---|---|
| 年間収入130万円未満 | 年間収入150万円未満に引き上げ |
適用される対象者と条件
年間収入要件が150万円未満に引き上げられる対象者は、以下の通りです。
• 対象者
被保険者の配偶者を除く、19歳以上23歳未満の方が対象となります。具体的には、親の扶養に入っている大学生、専門学校生などの世代となります(学生か否かは関係ありません。)。
• 適用開始日
令和7年10月1日以降に適用開始となりますので、令和7年10月1日より前の期間について遡及認定する場合は、従来の130万円未満で判定されます。
• 年齢判定基準
年齢要件(19歳以上23歳未満)は、その年の12月31日時点の年齢で判定されます。
• 改正の背景
この見直しは、令和7年度税制改正で19歳以上23歳未満の親族を扶養する場合の「特定扶養控除の要件見直し」や「特定親族特別控除の創設」が行われたことを踏まえ、人手不足の状況における就業調整対策として、税制上の優遇措置との整合性を図る観点から導入されました。
例えば、21歳の大学生のお子さんがアルバイトをしている場合、令和7年10月1日以降の認定であれば、年収が149万円までなら親の社会保険上の扶養に入り続けることができます。
なお、この150万円の壁は、あくまで被扶養者の年間収入要件のみが変更されるものであり、その他の要件(同居の場合の収入が被保険者の半分未満であること、別居の場合の収入が仕送り額未満であることなど)については、現行の取り扱いから変更はありません。また、学生であることの要件も求められません。



特定親族特別控除については、こちらの記事をご覧ください。
【町田市の税理士が解説】年末調整シリーズ第3回: 令和7年税制改正で新たに追加された特定親族特別控除とは?大学生の子を持つ親御さんに朗報!
4. まとめ
2025年、社会保険の「年収の壁」は、特に若い世代にとって大きな変化を迎えます。2025年10月時点の社会保険の壁を表にまとめると以下の通りとなります。
| 社会保険の壁 | 年収要件 | 対象者・条件 | 影響 |
|---|---|---|---|
| 106万円の壁 | 約106万円以上 (月額8.8万円) | 特定適用事業所(従業員数51人以上など)で週20時間以上勤務する 学生以外 | 勤務先で社会保険に加入義務発生 |
| 130万円の壁 | 130万円以上 | 上記106万円の壁の条件を満たさない一般の扶養親族 | 扶養から外れ、国民健康保険・国民年金に加入義務発生 |
| 150万円の壁 | 2025年10月1日以降 150万円未満に緩和 | 19歳以上23歳未満の被扶養者(配偶者を除く) | 150万円未満であれば、親の扶養に留まれる(緩和) |
「年収の壁」を意識して働き方をセーブすることは、一時的には手取りを守る効果があるかもしれません。
しかし、長期的に見れば 社会保険による保障(年金・医療・失業給付など)やキャリア形成の機会を失うリスク もあります。短期的な損得だけでなく、ご自身のキャリアプランやライフプランと天秤にかけて判断することが大切です。
特に注目すべきは、19歳から23歳未満のお子さんを持つご家庭に関する新制度です。
令和7年(2025年)10月1日以降は、配偶者の扶養に入れる年収基準が一部緩和され、150万円未満まで扶養内で働ける可能性があります。これにより、これまで「130万円の壁」を意識して働き方を調整していた方も、より柔軟に働ける環境が整う見込みです。制度改正を正しく理解し、ご家庭の状況に合った最適な働き方を選択しましょう。



社会保険や税制は毎年のように改正があり、非常に複雑です。
社会保険労務士や税理士 といった専門家に相談するなど、サポートを活用することで、誤解や思い込みによる不利益を防ぐことができます。最新の情報を正しく理解し、賢く働きましょう!税理士に依頼していない場合には、お気軽にこちらまでお問い合わせください。










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