【町田市の税理士が解説】個人の譲渡所得の税負担を軽減できる特例制度について:相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例(措法39条)編

ミミレイドン

ボス、おはようございます!
今朝のテーマは何でしょうか?

新屋賢人

個人の譲渡所得の税負担を軽減できる特例制度の第五弾として、相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例(措法39条)について整理して行きたいと思います。
相続で取得した土地・建物・株式などを、相続税申告期限の翌日から3年を経過する日までに譲渡する場合、この規定の適用を受けることにより、相続税のうち一定額を取得費に加算して譲渡所得を圧縮することができるため、所得税が安くなる可能性があります。

目次

1.譲渡所得とは?基本の仕組みをわかりやすく解説(おさらい)

資産の売却を検討される際に、まず押さえておくべき「原則的な譲渡所得の概念、計算式、および税率」について、復習していきましょう。

ミミレイドン

譲渡所得の基礎知識についてはこちらの記事をご確認ください。
【町田市の税理士が解説】個人の譲渡所得の基礎知識について

(1). 譲渡所得の基本概念

譲渡所得とは、土地、建物、株式、ゴルフ会員権などの資産を売却することによって生じる所得を指します。 単に資産を現金化した金額のすべてに課税されるわけではありません。「その資産をいくらで手に入れ、いくらで売ったか」の差額、つまり売却によって得られた「儲け(利益)」に対して税金がかかる仕組みです。

(2). 原則的な計算式

譲渡所得の金額は、以下の計算式で算出します。

譲渡所得 = 収入金額(売却代金) - ( 取得費 + 譲渡費用 ) - 特別控除額

それぞれの項目の内容は以下の通りです。

  • 収入金額
    売却によって受け取る代金です。これには、固定資産税・都市計画税の精算金として受け取った金額も含まれます。
  • 取得費
    その資産を買い入れた代金や、購入時に支払った仲介手数料、登記費用などの合計額です。建物の場合は、所有期間中の減価償却費(価値の減少分)を差し引く必要があります。なお、実際の取得費が不明な場合は、売却価格の5%を取得費(概算取得費)とすることも認められています。
  • 譲渡費用
    仲介手数料、印紙代、測量費、借家人への立退料、建物解体費など、売却するために直接かかった費用です。
  • 特別控除額
    今回の記事のテーマであるマイホーム売却時の「3,000万円特別控除」など、一定の要件を満たす場合にのみ利益から差し引ける、非常に強力な節税枠です。

(3). 原則的な税率

譲渡所得は、他の所得と合算せず個別に税額を計算する「申告分離課税」が適用されます。税率は資産の種類や所有期間によって以下のように分類されます。

不動産(土地・建物)の場合

不動産は、売却した年の「1月1日時点」での所有期間によって税率が倍近く変わります。

   区分   所有期間(譲渡年の1月1日時点)   税率
長期譲渡所得5年を超える20.315%(所得税(復興含む)15.315%・住民税5%)
短期譲渡所得5年以下39.63%(所得税(復興含む)30.63%・住民税9%)

2.相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例(措法39条)とは?

(1). 制度の概要

相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例(措法39条)は、相続によって取得した土地、建物、株式などの財産を一定期間内に譲渡した場合に、支払った相続税額のうち一定金額を譲渡資産の取得費(経費)に加算できる制度です。この制度は、相続直後に納税資金を確保するために財産を売却する際、相続税と譲渡所得税が二重に課税される負担を軽減することを目的として設計されています。

新屋賢人

この特例は譲渡所得のみに適用がある特例です。株式等の譲渡による事業所得および雑所得については、適用できませんのでご注意ください。

(2). 取得費に加算する金額の計算

取得費に加算できる相続税額は、原則として以下の算式で計算します。

取得費加算額=その人の相続税額×譲渡した資産の相続税評価額​÷その人の相続税の債務控除前の課税価格

  • 算式の「相続税額」
    贈与税額控除や相次相続控除を適用する前の税額を基準とします。
  • 譲渡益による制限
    加算額は、特例適用前の譲渡益(売却価格 - 本来の取得費 - 譲渡費用)が上限となります。譲渡損失(赤字)が出ている資産には加算できず、他の資産の譲渡益に振り分けることもできません。

(3). 具体例によるシミュレーション

ケースA:標準的なケース

  • 相続財産: 土地1億円、上場株式2,500万円(合計1億2,500万円)
  • 支払った相続税: 1,533万3,300円
  • 状況: 相続した「土地」を申告期限内に売却した。

この場合、土地に対応する相続税額を計算します。
1,533万3,300円×1億円÷1億2,500万円​=1,226万6,640円 この金額を土地の取得費に加算できるため、譲渡所得が圧縮され、所得税・住民税が軽減されます

ケースB:代償分割を行った場合(制度設計上の注意点)

代償分割とは、特定の相続人が現物資産を多く受け継ぐ代わりに、他の相続人へ「代償金」を支払う方法です。この場合、分母と分子の評価額から代償金相当額を差し引く調整が必要になり、加算できる金額が減少します。

  • 相続財産: 土地1億円、上場株式5,000万円(合計1億5,000万円)
  • 代償金の支払い: 他の相続人に2,500万円を支払った
  • 支払った相続税: 1,533万3,300円

この場合、土地の評価額を「1億円−(2,500万円×1億円÷1億5,000万円​)」のように調整した上で計算するため、加算額は1,022万2,200円となり、代償金を支払わない場合よりも節税効果が薄れます。
①土地の評価額:1億円−(2,500万円×1億円÷1億5,000万円​)=83,333,334
②この土地に対応する相続税額:1,533万3,300円×83,333,334÷(1億5,000万円​-2,500万円)=1,022万2,200円

3.相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例(措法39条)の要件

相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例(措置法39条)を適用するためには、主に以下の3つの基本要件をすべて満たす必要があります

1. 対象者の要件

  • 相続または遺贈(死因贈与を含む)により財産を取得した個人であること。
  • 相続人以外の受遺者であっても適用可能です。
  • 法人が遺贈によって取得し売却した場合には、所得税ではなく法人税の対象となるため、この特例は適用されません

2. 相続税の納税要件

  • その財産を取得した人に相続税が課税されていることが必要です。
  • 「配偶者の税額軽減」や障害者控除などの適用を受けた結果、実際に支払う相続税額がゼロになった場合、この特例は受けられません
  • なお、贈与税額控除や相次相続控除を適用している場合は、それらの控除を差し引く前の税額を基準として計算します。
  • 相続時精算課税制度や相続開始前3年(改正後は最大7年)以内の贈与によって取得し、相続税の課税対象となった財産も対象に含まれます

3. 譲渡期限の要件

  • 財産を、相続開始があった日の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡していることが必要です。相続税の申告期限は、原則として相続開始を知った日の翌日から10か月以内であるため、一般的には相続開始から3年10か月以内が売却の期限となります。
  • 「譲渡の日」は原則として資産の引渡し日ですが、納税者の選択により売買契約の日とすることも可能です。
新屋賢人

対象資産としては、相続税の課税価格の計算の基礎に含まれた土地、建物、株式、ゴルフ会員権などの資産が対象となります。
ただし、誤解が多い箇所のため、繰り返しとなりますが、株式等の譲渡による所得が「事業所得」や「雑所得」となる場合は適用できず、「譲渡所得」として申告する場合に限られます。

4.適用除外

相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例(措法39条)には、制度の性質上、複数の適用除外(適用できないケース)が定められています。具体的には、対象者の属性、所得の種類、資産の収支状況、および他の特例との関係などから判定されます。基本的には、上記3の適用要件の裏返しとなりますので、内容としては重複いたします。

1. 相続税の納税実態による除外

この特例は、支払った相続税の一部を取得費に充てる制度であるため、実際に相続税を納付していない人は適用対象外となります。

  • 相続税額がゼロの場合
    「配偶者の税額軽減」や障害者控除などの適用を受けた結果、実際に支払うべき相続税額がゼロになった場合、取得費に加算できる金額がないため適用できません
  • 贈与税額の加算不可
    取得費に加算できるのは相続税のみです。取得した際に贈与税を支払っていたとしても、その贈与税額を加算することはできません。ただし、相続時精算課税の適用などで相続税の課税価格に算入された贈与財産については、それに対応する相続税額の加算が認められます
新屋賢人

原則として、その財産を取得した人に“相続税額(確定相続税額)”があることが要件となりますが、贈与税額控除(相法19)の適用がある場合は、政令・通達により贈与税額控除を足し戻した相続税額を用いて計算することになります。

2. 対象者および所得区分による除外

  • 法人の除外
    この特例は個人が所得税(譲渡所得)を申告する際の制度です。法人が遺贈によって財産を取得し、売却した場合は法人税の対象となるため、この特例は適用されません。
  • 譲渡所得以外への適用不可
    この特例が適用できるのは「譲渡所得」に限られます。例えば、上場株式の売却であっても、それが「事業所得」や「雑所得」として申告される場合には、取得費加算の特例を受けることはできません
  • みなし配当部分の除外
    相続した非上場株式を発行会社に譲渡(自己株式の取得に応じるなど)した場合、「みなし配当」とされる所得部分にはこの特例を適用できません。適用できるのは譲渡所得として計算される部分のみです。

3. 譲渡資産の損益状況による除外

特例は資産ごとに計算されるため、売却によって利益が出ていない資産は対象外となります。

  • 譲渡損失(赤字)が出ている資産
    その資産の譲渡価額が本来の取得費と譲渡費用の合計額を下回り、譲渡損失(赤字)が生じている場合には、この特例の適用を受けることはできません
  • 他の資産への振替不可
    譲渡損失の出た資産に対応する相続税額を、利益が出ている他の資産の取得費に振り分けて加算することはできません

4. 他の特例との併用制限(選択適用)

  • 空き家特例との併用不可
    「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの3,000万円特別控除(空き家特例)」とは重複して適用することができず、選択制となっています。同一の不動産について両方の要件を満たしていても、どちらか有利な方一方しか選べません。

参照:国税庁タックスアンサー No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例

5. 手続きや期間による除外

  • 期限後の譲渡
    相続開始の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日(一般的に相続開始から3年10ヶ月)を過ぎて売却した場合は、一切適用できません。
  • 申告不要を選択した場合
    上場株式等を「源泉徴収ありの特定口座」で売却し、確定申告をしない(申告不要制度)を選択した後に、遡って取得費加算の特例を受けるために更正の請求をすることは認められません。
  • 当初申告要件
    原則として確定申告書にこの特例を適用する旨の記載が必要です。うっかり適用を忘れて期限内申告を完了してしまった場合、原則として更正の請求で後から適用を追加することはできません。
  • 更正の請求期限の徒過
    所得税の申告時に相続税額が確定しておらず、後に相続税が確定してから特例を適用する場合、相続税の申告書を提出した日の翌日から2ヶ月以内に更正の請求を行う必要があります。この2ヶ月を過ぎてしまうと、適用が受けられなくなります。
ミミレイドン

申告要件については、次の章でも取り上げております。

5.適用手続と必要書類

相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例(措法39条)を適用するための手続は、原則として財産を売却した翌年の確定申告期間内に行う必要があります

以下に、適用手続の詳細と必要書類について詳しく説明します。

1. 適用手続の流れ

特例の適用を受けるためには、所得税の確定申告を正しく行う必要があります。

  • 申告時期
    資産を譲渡した日の属する年の翌年2月16日から3月15日までの間です。
  • 申告先
    納税者の住所地を管轄する税務署に提出します。
  • 相続税が未確定の場合
    所得税の申告期限(3月15日)までに相続税額が確定していない場合は、一旦この特例を適用せずに確定申告を行います。その後、相続税の申告書を提出した日の翌日から2か月以内に「更正の請求」の手続を行うことで、所得税の還付を受けることが可能です。この2か月の期限を過ぎると特例が受けられなくなるため、注意が必要です

2. 提出が必要な書類

確定申告書には、主に以下の書類を添えて提出する必要があります。

必須の明細書

  • 「相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書」
    取得費に加算される相続税額を計算するための書類です。
  • 「譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)[土地・建物用]」 または 「株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書」

確定申告関連書類

  • 確定申告書(第一表、第二表、および分離課税用の第三表)。
  • 源泉徴収票(給与所得などがある場合)。
  • マイナンバーカードなどの本人確認書類。

譲渡内容を確認する資料

  • 売却時の売買契約書(売却代金や譲渡費用を確認するため)。
  • 購入時の売買契約書等(本来の取得費を確認するため)。
  • 登記事項証明書(不動産の場合)。

3. 手続上の留意点

  • 相続税申告書の写し
    かつては添付が必要でしたが、平成30年度の確定申告から添付は不要となりました。
  • 資産ごとの計算
    取得費加算の金額は、譲渡した資産ごとに計算し、それぞれの明細書に記載する必要があります
  • 当初申告要件
    原則として期限内の確定申告(当初申告)で適用を受ける必要があります。うっかり適用を忘れて申告を完了した場合、後から更正の請求で追加することは原則として認められないため、必ず最初の申告時に記載を確認してください。
  • 申告不要の選択
    上場株式等を「源泉徴収ありの特定口座」で売却し、確定申告をしない(申告不要)を選択した後に、後からこの特例を受けるための更正の請求を行うことはできません
新屋賢人

確定申告時に特例の記載や書類の添付を忘れた場合でも、税務署長が「やむを得ない事情」があると認める場合には、後から提出された書類に基づいて特例を適用できるとする規定(措法39条3項)が存在します。
ただし、この「やむを得ない事情」は厳格に判断されるため、単なる失念や制度の不知は該当しない可能性が高いと考えられています。

参照:No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
参照:措置法第39条《相続財産に係る譲渡所得の課税の特例》関係

6.まとめ

相続で取得した土地・建物・株式などを、相続税申告期限の翌日から3年を経過する日までに譲渡する場合、相続税のうち一定額を取得費に加算できるのが「取得費加算の特例(措法39条)」です。
この特例を使うと譲渡所得が圧縮され、譲渡所得税の負担を軽減できる一方、適用には「相続税額(確定相続税額)の考え方」や「譲渡益が上限になること」「資産ごとに計算すること」など実務上の注意点も少なくありません。
また、空き家特例(被相続人居住用財産の3,000万円特別控除)とは同一譲渡で重複適用できないため、要件を満たす場合は有利判定のうえで選択することが重要です。
期限管理と書類添付(計算明細書の作成)で適用漏れが起こりやすい特例でもあるため、譲渡の検討段階から申告スケジュールを意識し、必要に応じて税理士に確認しながら進めることをおすすめします。税理士をお探しの方は、お気軽にこちらまでお問い合わせください。

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この記事を書いた人

町田市にあるコムレイド税理士事務所の代表税理士の新屋賢人です。大学卒業後、中堅税理士法人で5年間、業界最大手である国際四大会計事務所(BIG4)のEY税理士法人で8年間、計13年間の実務経験があります。
30代ですが、すでに法人・個人問わず幅広い業務を経験しております。BIG4という業界最大手で得た経験・知識を生まれ育った街に還元したいという強い思いから独立を決めました。

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