ミミレイドンボス、おはようございます!
2026年8月6日のテーマはなんでしょうか?



今朝は、グループ通算制度の開始に伴う留意点のうち、制度開始後に生じる損金算入や損益通算の制限について整理していきたいと思います。



制度を開始する前の繰越欠損金だけでなく、開始した後に発生する損失にも制限があるのですか?



はい。開始前の繰越欠損金が切り捨てられない場合でも、開始後に特定資産を売却したり、多額の減価償却費が生じたりすると、損金算入または損益通算が制限されることがあります。



繰越欠損金を持ち込めたからといって、それで検討が終わるわけではないのですね。



そのとおりです。制度開始時の判定と、制度開始後の制限は一続きの問題として検討しなければなりません。



具体的には、どのような順番で確認すればよいのでしょうか?



時価評価対象法人に該当するか、支配関係が5年を超えているか、共同事業性があるか、新たな事業を開始しているか、という順番で確認します。そのうえで、特定資産譲渡等損失と多額の償却費に関する制限を検討いたします。
グループ通算制度では、完全支配関係にある企業グループ内の各法人が、それぞれを納税単位として法人税額を計算し、個別に申告を行います。その一方で、グループ内の所得と欠損を一定の範囲で通算できる仕組みが設けられています。国税庁も、制度開始・加入時の時価評価課税や欠損金の持込みについて、組織再編税制と整合性のとれた制度であると説明しています。
もっとも、グループ通算制度を開始したからといって、すべての欠損金や損失を無条件にグループ内で利用できるわけではありません。特に、支配関係が生じてから間もない法人や、グループ各社の事業に共同事業性が認められない法人については、含み損や欠損金を利用した租税回避を防止する観点から、厳格な制限が設けられています。



繰越欠損金の取り扱いや時価評価対象法人については、こちらのブログ記事をご覧ください。
【町田市の税理士が解説】グループ通算制度開始における繰越欠損金の取り扱い
【町田市の税理士が解説】グループ通算制度開始における時価評価対象法人
1. 最初に押さえたい全体像
グループ通算制度開始後の制限を理解するには、次の4段階で法人の状況を判定する必要があります。
- 時価評価対象法人に該当するか
- 支配関係が5年を超えているか
- 共同事業性があるか
- 支配関係発生日以後に新たな事業を開始したか
制度開始後の損金算入や損益通算の制限が問題となるのは、原則として、次の3要件をすべて満たす時価評価対象外法人です。
| 判定項目 | 制限対象となる基本条件 |
|---|---|
| 時価評価の判定 | 時価評価対象外法人である |
| 支配関係の期間 | 支配関係5年以下である |
| 共同事業性 | 共同事業性がない |
| 追加判定 | 新たな事業の開始、多額の償却費、特定資産譲渡等損失の有無を確認する |
時価評価対象法人については、制度開始時に保有資産の含み損益を清算し、原則として開始前の繰越欠損金も切り捨てる仕組みになっています。これに対し、時価評価対象外法人は、含み損益や繰越欠損金を一定範囲で持ち込むことができるため、制度開始後の利用段階で追加的な制限を設ける必要があります。
制度開始後の制限は大きく3種類
具体的には、次の3種類に整理できます。
| 区分 | 主な要件 | 制限の内容 |
|---|---|---|
| ①新たな事業を開始した場合 | 支配関係5年以下、共同事業性なし、新たな事業を開始 | 特定資産譲渡等損失を損金不算入 |
| ②多額の償却費が生じる場合 | 支配関係5年以下、共同事業性なし、多額の償却費が生じる事業年度 | 通算前欠損金額の損益通算を制限 |
| ③上記以外の場合 | 支配関係5年以下、共同事業性なし、新たな事業を開始しておらず、多額の償却費も生じていない | 特定資産譲渡等損失に達するまでの通算前欠損金額の損益通算を制限 |
重要なのは、①が「損金算入そのものの制限」であるのに対し、②と③は「グループ内での損益通算の制限」であるという点です。
損益通算が制限された金額は、法人の欠損そのものが消滅するわけではありません。その法人に帰属する特定欠損金として取り扱われ、原則として、その法人自身の所得金額を上限に繰越控除の対象となります。



使えないという言葉だけで判断してはいけません。永久に損金にならないのか、当期の損金算入が認められないのか、グループ内の損益通算だけができないのかを、必ず分けて整理してください。
2. 制限期間はいつからいつまでか
これらの制限は、無期限に続くものではありません。原則として、次のいずれか早い日までが制限期間となります。
- グループ通算制度開始日以後3年を経過する日
- 支配関係発生日以後5年を経過する日
したがって、基本的な制限期間は次のように表すことができます。
グループ通算制度開始日から、「開始日以後3年経過日」と「支配関係発生日以後5年経過日」のいずれか早い日まで
支配関係発生日から制度開始日までの期間が長ければ長いほど、制度開始後の制限期間は短くなります。
たとえば、支配関係発生日から4年6か月後にグループ通算制度を開始した場合、支配関係発生日から5年を経過するまでの残り6か月程度が制限期間となります。一方、支配関係発生日から1年後に制度を開始した場合は、制度開始日以後3年を経過する日の方が早いため、原則として開始後3年間が制限期間となります。
中途加入法人の注意点
すでにグループ通算制度を適用している通算グループへ後から加入した法人については、グループ全体の制度開始日ではなく、その法人について通算承認の効力が生じた日、すなわち加入日を基準として適用期間を判定します。
この場合の適用期間は、原則として加入日から次のいずれか早い日までです。
- 加入日以後3年を経過する日
- その加入法人と通算親法人との支配関係発生日以後5年を経過する日
したがって、中途加入法人の適用期間は加入日から最長3年間となりますが、加入前から50%超の支配関係が存在していた場合には、支配関係発生日以後5年を経過する日の方が先に到来し、加入後の適用期間が3年より短くなることがあります。
なお、中途加入によって支配関係発生日からの5年カウントがリセットされるわけではありません。既存の通算法人についての適用期間が延長されるものでもありません。加入法人ごとに、その法人の加入日と支配関係発生日を確認する必要があります。
支配関係発生日の考え方
通算子法人の場合、支配関係発生日は、原則として、その子法人が通算親法人との間に最後に支配関係を有することとなった日です。
通算親法人の場合は、他の通算法人のうち、その親法人との間に最後に支配関係を有することとなった日が最も早い法人との間で、最後に支配関係を有することとなった日を用います。簡潔にいえば、親法人といずれかの通算子法人との支配関係発生日のうち、最も古い日を基準とします。
ここでいう支配関係は、完全支配関係に限らず、原則として50%超の直接または間接の資本関係をいいます。



制限期間の終了日は、制度開始日だけを見ても計算できません。株式取得日、組織再編日、資本関係の変動日を確認し、いつ『最後に支配関係を有することとなったか』を整理しておく必要があります。
3. 新たな事業を開始した場合の損金算入制限
3-1. 制限が適用される法人
次の要件を満たす時価評価対象外法人が、支配関係発生日以後に新たな事業を開始した場合、制限期間中に生じた特定資産譲渡等損失は損金の額に算入されません。
- 支配関係5年以下
- 共同事業性なし
- 支配関係発生日以後に新たな事業を開始
この場合、制度開始前の繰越欠損金についても、一定の切捨てが生じる可能性があります。
具体的には、原則として次の金額が切捨ての対象となります。
- 支配関係事業年度より前の事業年度に生じた繰越欠損金
- 支配関係事業年度以後の繰越欠損金のうち、特定資産譲渡等損失から成る部分の金額
さらに、制度開始後についても、制限期間中の特定資産譲渡等損失が損金不算入となります。つまり、開始前の欠損金に対する制限と、開始後に発生する損失に対する制限が連続して適用される仕組みです。
3-2. 「新たな事業の開始」とは何か
新たな事業を開始したとは、その法人がすでに行っている事業とは異なる事業を開始したことをいいます。
一方、法人税基本通達上、既存事業について次のような変化があっただけでは、通常、新たな事業の開始には該当しません。
- 新製品を開発した
- 既存事業の営業地域を拡大した
- 休業中の既存事業を再開した
- 既存事業の規模を拡大した
- 既存事業の販売方法や提供方法を変更した
通達に掲げられた事例はあくまで例示であり、形式だけでなく、事業内容、設備、人員、取引先、収益構造などの事実関係を総合的に見て判断すべきであるものと考えられます。
具体例
不動産賃貸業を営んでいた法人が、支配関係発生日後に飲食店を開業した場合は、一般に新たな事業の開始に該当する可能性が高いと考えられます。
これに対し、住宅賃貸業を営む法人が、賃貸対象地域を町田市内から東京都内全域へ拡大しただけであれば、通常は事業地域の拡大にすぎず、新たな事業を開始したことにはなりません。
ただし、単に定款の事業目的を追加しただけでは、通常、事業を開始したことにはなりません。実際に設備を取得し、人員を配置し、営業活動や商品販売、役務提供などを開始した時点を、事実関係に基づいて判断する必要があります。
3-3. 制度開始後に新たな事業を始めた場合
注意したいのは、グループ通算制度開始時点で新たな事業を開始していなかったとしても、その後、制限期間中に新たな事業を開始すれば、その時点から制限が生じることです。
この場合、次の取扱いになります。
- 新たな事業を開始した日以後に終了する事業年度において、一定の繰越欠損金を切り捨てる
- 新たな事業を開始した日の属する事業年度開始の日から、特定資産譲渡等損失の損金算入を制限する
切捨ての対象は、原則として次のとおりです。
- 支配関係事業年度前の繰越欠損金
- 支配関係事業年度以後の繰越欠損金のうち、特定資産譲渡等損失から成る部分
制度開始時に「新たな事業なし」と判定していたとしても、その後の事業展開によって判定結果が変わり得るため、制限期間中は継続的なモニタリングが必要です。



制度開始時の判定書を作って終わりにしてはいけません。制限期間中に新規事業を計画した場合は、事業開始前に、繰越欠損金と含み損資産への影響を再点検してください。
4. 特定資産譲渡等損失とは何か
4-1. 基本的な計算構造
特定資産譲渡等損失は、概念的には次の算式によって計算されます。
特定資産譲渡等損失
= 特定資産の譲渡、評価換え、貸倒れ、除却などによる損失の合計額- 特定資産の譲渡、評価換えなどによる利益の合計額
特定資産に係る損失だけを機械的に合計するのではなく、特定資産から利益も生じている場合には、その利益を控除して純額を求めます。
4-2. 特定資産の範囲
特定資産とは、原則として、支配関係発生日の属する事業年度開始の日より前から、当該通算法人が保有していた資産をいいます。
この判定では、単に支配関係発生日当日に保有していたかどうかではなく、「支配関係発生日の属する事業年度の開始日前」から保有していたかを確認します。
たとえば、3月決算法人について、2025年10月1日に支配関係が生じた場合、支配関係事業年度は2025年4月1日から2026年3月31日までです。この場合、原則として2025年4月1日より前から保有していた資産が特定資産の候補となります。
4-3. 特定資産から除外される資産
次のような資産は、原則として特定資産から除外されます。
| 除外資産 | 留意点 |
|---|---|
| 棚卸資産 | 土地等を除く |
| 短期売買商品等 | 法人税法上の短期売買商品等 |
| 売買目的有価証券 | 売買目的として区分される有価証券 |
| 少額資産 | 最初制限年度開始日における帳簿価額または取得価額が1,000万円未満 |
| 含み損のない資産 | 所定の明細書添付と資料保存が必要 |
| 一定の非適格合併により取得した資産 | 譲渡損益調整資産以外の一定の資産 |
少額資産の1,000万円判定は、単純に勘定科目ごとの合計額で判定するものではありません。財務省令で定める単位に区分した後の、それぞれの帳簿価額または取得価額によって判定します。土地、建物、有価証券など、資産ごとの判定単位を確認する必要があります。
4-4. 「譲渡等」の範囲
譲渡等には、通常の売却だけでなく、次のような事由も含まれます。
- 譲渡
- 評価換え
- 貸倒れ
- 除却
- その他の事由による損失または利益
したがって、「特定資産を売却しなければ制限されない」という理解は正しくありません。貸付金の貸倒れ、有価証券の一定の評価損、固定資産の除却なども対象となる可能性があります。
一方、一定の災害による資産の滅失・損壊、減価償却資産の一定の除却、更生手続開始決定や再生手続開始決定に伴う一定の損失などは、政令上の除外対象となる場合があります。個別事情と法令上の要件を照合する必要があります。



固定資産売却損だけを確認しても不十分です。貸倒損失、評価損、除却損、組織再編による資産移転まで含め、特定資産に関係する損益を横断的に集計してください。
5. 特定資産の判定に関する特例
5-1. 開始日前2年以内の組織再編
グループ通算制度開始前の一定期間内に、支配関係のある法人から適格合併、適格分割、適格現物出資、適格現物分配などによって資産の移転を受けている場合、その移転資産についても特定資産に含まれることがあります。
具体的には、グループ通算制度開始日の2年前の日から最初制限年度開始日の前日までの間に、一定の特定適格組織再編等が行われている場合、被合併法人や分割法人などが支配関係事業年度開始日前から保有していた資産を、通算法人が自己の特定資産として保有していたものとみなすことがあります。
この特例がなければ、支配関係法人間の組織再編によって含み損資産を別法人へ移転し、その後に売却することで制限を回避できてしまいます。そこで、一定の組織再編を通じて移転した資産についても、従前の保有状況を引き継いで判定する仕組みになっています。
5-2. 時価純資産価額に関する特例
一定の申告書への明細書添付と、時価純資産価額の算定根拠資料の保存を前提として、法人全体の時価純資産状況を用いる特例があります。
時価純資産価額が簿価純資産価額以上の場合
支配関係事業年度の前事業年度終了時において、時価純資産価額 ≧ 簿価純資産価額である場合には、一定の要件のもとで、特定資産譲渡等損失額をないものとすることができます。
法人全体で見れば含み益が含み損以上であるため、個々の含み損資産だけを利用した租税回避のおそれが相対的に低いと考えられるためです。
時価純資産価額が簿価純資産価額を下回る場合
時価純資産価額 < 簿価純資産価額の場合には、簿価純資産価額が時価純資産価額を超える金額、すなわち法人全体の純含み損に相当する金額を基礎として、特定資産譲渡等損失の制限額に一定の上限を設けることができます。
ただし、過年度においてすでに特定資産譲渡等損失として扱われた金額や、他の規定によって切り捨てられた金額等については、重複制限を避けるための調整が必要です。
特例を受けるための手続
この特例を適用するには、一般に次の対応が必要です。
- 確定申告書、修正申告書または更正請求書への所定の明細書の添付
- 時価純資産価額の算定基礎を記載した書類の保存
- 資産および負債の時価算定資料の保存
- 含み損益の計算過程を確認できる資料の保存
特例が有利であっても、明細書の添付や資料保存を欠けば適用できない可能性があります。制度開始前から資産評価資料を準備しておくことが重要です。



時価純資産価額の特例は、制限額を大きく減らせる可能性があります。ただし、後から時価資料を再現するのは容易ではありません。株式取得や制度開始の段階で、評価資料を整えておくことをおすすめします。
6. 多額の償却費が生じる事業年度の損益通算制限
6-1. 制限の対象
時価評価対象外法人について、次の両方に該当する場合には、制限期間中の通算前欠損金額について、グループ内の損益通算が制限されます。
- 支配関係5年以下
- 共同事業性なし
- 多額の償却費が生じる事業年度に該当
この制限が適用される場合、通算前欠損金額は他の通算法人の所得と通算できません。その欠損金額は、原則としてその法人に帰属する特定欠損金として管理されます。
6-2. 30%基準
多額の償却費が生じる事業年度とは、制限期間に属する事業年度のうち、概ね次の割合が30%を超える事業年度です。
その事業年度に減価償却費として損金経理した金額の合計額÷その事業年度の収益に係る原価、販売費、一般管理費その他の費用として確定決算で経理した金額の合計額> 30%
分母・分子の内容を整理すると、次のとおりです。
| 区分 | 主な内容 |
|---|---|
| 分子 | 減価償却資産について償却費として損金経理した金額等 |
| 分母 | 収益に係る原価、販売費、一般管理費その他の費用として確定決算で経理した金額の合計額 |
| 判定基準 | 割合が30%を超えるか |
30%ちょうどの場合ではなく、「30%を超える」場合が対象です。
6-3. 分子に含まれる金額
ここでいう「償却費として損金経理した金額」は、損益計算書上の減価償却費という科目だけではありません。
法人税基本通達上、次のような金額も含まれることがあります。
- 減価償却資産の取得価額に算入すべき付随費用を費用処理した金額
- 圧縮限度額を超えて帳簿価額を減額した場合の超過額
- 資本的支出に該当する金額を修繕費として経理した場合の損金不算入額
- 無償または低額取得した減価償却資産について、税務上の取得価額に不足する金額
- 除却損や評価損、減損損失として計上した金額のうち、税務上損金算入されない一定の金額
- 少額の減価償却資産や耐用年数3年以下の資産を消耗品費等として損金経理した一定の金額
- ソフトウエアの取得価額に算入すべき金額を研究開発費として損金経理した場合の金額
- 一定の特別償却準備金の積立額
したがって、会計上の「減価償却費」勘定だけを分子として30%判定をすると、誤判定になるおそれがあります。
具体例
ある通算子法人の当期費用が次のとおりだったとします。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 売上原価・販売費・一般管理費等 | 1億円 |
| 上記費用に含まれる減価償却費等 | 3,500万円 |
この場合の割合は、3,500万円 ÷ 1億円 = 35%となるため、他の要件も満たす場合には、多額の償却費が生じる事業年度に該当します。
その結果、その年度に生じた通算前欠損金額は、原則として他の通算法人の所得と損益通算できません。



設備投資型の法人、不動産保有法人、ホテル運営法人、太陽光発電事業法人、ソフトウエア開発法人などは、30%基準に該当しやすい傾向があります。制度開始前に、少なくとも制限期間分の償却費率を試算してください。
7. 新たな事業を開始しておらず、多額の償却費もない場合
支配関係5年以下で共同事業性がないものの、新たな事業を開始しておらず、かつ、多額の償却費が生じる事業年度にも該当しない場合、開始後の欠損金をすべて損益通算できるわけではありません。
この場合には、制限期間中の通算前欠損金額のうち、特定資産譲渡等損失に達するまでの金額が、損益通算の対象から除外されます。
具体例
通算子法人A社について、当期の数値が次のとおりだったとします。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 通算前欠損金額 | 5,000万円 |
| 特定資産に係る損失 | 3,000万円 |
| 特定資産に係る利益 | 500万円 |
| 特定資産譲渡等損失 | 2,500万円 |
特定資産譲渡等損失は、3,000万円 - 500万円 = 2,500万円です。
したがって、通算前欠損金額5,000万円のうち、2,500万円についてはグループ内の損益通算の対象外となります。
残りの2,500万円については、他の損益通算要件を満たす限り、通算対象となり得ます。
損益通算の対象外となった2,500万円は消滅するのではなく、原則としてA社に帰属する特定欠損金として管理されます。
特定資産譲渡等損失を超える欠損部分
この制限の目的は、支配関係発生前から存在していた含み損を、グループ通算制度を通じて他社の所得と相殺することを防止することにあります。
したがって、特定資産譲渡等損失を超える部分まで一律に損益通算を禁止する仕組みではありません。これが、多額の償却費が生じる事業年度における「通算前欠損金額全体の制限」との大きな違いです。



欠損金額全額が制限されるのか、特定資産譲渡等損失相当額だけが制限されるのかは、税額に大きな差を生じさせます。30%基準の判定を先に行い、その後に特定資産譲渡等損失を計算してください。
8. 複数の制限が重なる場合
8-1. 新たな事業を開始した場合の規定が優先する
特定資産譲渡等損失について損金不算入となる法人税法64条の14の適用がある事業年度は、原則として、同じ損失について法人税法64条の6による損益通算制限を重ねて適用しない構造になっています。
これは、同一の損失について、
- まず損金不算入にする
- さらに損益通算も禁止する
という二重の制限を避けるためです。
したがって、新たな事業を開始したことにより特定資産譲渡等損失が損金不算入となる場合には、まず法人税法64条の14の適用を検討します。
8-2. 制限期間中に新たな事業を開始した場合
当初は新たな事業を開始しておらず、特定資産譲渡等損失相当額の損益通算制限または多額の償却費に関する制限を受けていた法人が、制限期間中に新たな事業を開始することもあります。
この場合、新たな事業を開始した日の属する事業年度以後については、特定資産譲渡等損失の損金不算入制度との適用関係を整理する必要があります。
「開始時には問題がなかった」という過去の判定だけでは足りず、新規事業の発生年度に再度判定しなければなりません。
8-3. 通算グループ内の期中合併
通算グループ内で期中合併が行われ、合併法人が被合併法人の最終事業年度の欠損金を損金算入する場合にも、制限対象額の引継ぎが問題となります。
被合併法人の最終事業年度について法人税法64条の6を適用したと仮定した場合に、損益通算の対象外となる金額が含まれているときは、合併法人側でも、その制限対象額に達するまでの通算前欠損金額が損益通算の対象外となります。
期中合併を行えば制限が消えるわけではなく、一定の範囲で合併法人に制限が引き継がれる仕組みです。



グループ内再編を行うときは、資産と欠損金だけでなく、制限対象額も引き継がれる可能性があります。税務デューデリジェンスの確認項目に必ず加えてください。
9. 判定結果の比較
ここまでの取扱いをまとめると、次のようになります。
| 法人の状況 | 開始前繰越欠損金 | 開始後の特定資産譲渡等損失 | 開始後の損益通算 |
|---|---|---|---|
| 時価評価対象法人 | 原則切捨て | 通常の所得計算 | 原則として通常どおり |
| 時価評価対象外、支配関係5年超 | 原則切捨てなし。特定欠損金 | 原則として本制限なし | 原則として通算可能 |
| 時価評価対象外、支配関係5年以下、共同事業性あり | 原則切捨てなし。特定欠損金 | 原則として本制限なし | 原則として通算可能 |
| 支配関係5年以下、共同事業性なし、新事業開始あり | 一定額を切捨て | 制限期間中は損金不算入 | 損金不算入規定を優先 |
| 支配関係5年以下、共同事業性なし、新事業開始なし、多額償却あり | 原則切捨てなし。特定欠損金 | 通常の所得計算 | 通算前欠損金額を損益通算の対象外 |
| 支配関係5年以下、共同事業性なし、新事業開始なし、多額償却なし | 原則切捨てなし。特定欠損金 | 通常の所得計算 | 特定資産譲渡等損失相当額まで対象外 |
なお、「開始前繰越欠損金の切捨てなし」といっても、開始後に非特定欠損金としてグループ全体で自由に使えるという意味ではありません。持ち込まれた欠損金は原則として特定欠損金となり、その通算法人自身の所得金額を上限として控除されます。
10. 実務で準備しておきたい資料
制度開始後の制限を正しく判定するためには、制度開始時に次の資料を整備しておくことが重要です。
資本関係に関する資料
- 株主名簿
- 資本関係図
- 株式取得契約書
- 株式移転・株式交換関係書類
- 過去の増資、減資、株式譲渡の履歴
- 支配関係発生日を確認できる資料
事業内容に関する資料
- 各社の事業概要
- 定款
- 主要商品・サービス一覧
- 事業別売上高
- 事業別損益
- 事業別従業者数
- 固定資産台帳
- 新規事業計画書
- 取締役会議事録
特定資産に関する資料
- 支配関係事業年度開始日時点の固定資産台帳
- 土地・建物・有価証券・貸付金等の明細
- 取得日および取得価額
- 税務上の帳簿価額
- 時価評価資料
- 組織再編による取得資産の履歴
- 譲渡損、評価損、貸倒損失、除却損の明細
多額の償却費に関する資料
- 減価償却費明細
- 特別償却準備金の明細
- 修繕費の税務調整明細
- 少額減価償却資産の明細
- ソフトウエア取得費・研究開発費の内訳
- 原価、販売費、一般管理費その他の費用の集計資料
- 30%基準の計算表
繰越欠損金に関する資料
- 欠損金の年度別明細
- 支配関係事業年度前後の区分
- 特定資産譲渡等損失から成る部分の計算
- 過年度の欠損金利用額
- 適格合併等で引き継いだ欠損金の明細
- 特定欠損金の管理表



申告時に資料を集め始めるのでは遅い場合があります。特に時価資料と事業開始日の証拠資料は、制度開始時または新規事業の検討時に保存しておくことが重要です。
11. 実務上よくある誤解
誤解1 開始前欠損金を持ち込めれば、開始後は自由に使える
開始前の繰越欠損金が切り捨てられなくても、原則として特定欠損金となります。また、開始後の通算前欠損金額について、特定資産譲渡等損失や多額の償却費を理由に損益通算が制限されることがあります。
誤解2 新規事業の開始は制度開始時だけ判定すればよい
制度開始後、制限期間中に新たな事業を開始した場合にも、繰越欠損金の切捨てや特定資産譲渡等損失の損金不算入が生じる可能性があります。
誤解3 固定資産を売却しなければ特定資産譲渡等損失は生じない
譲渡だけでなく、評価換え、貸倒れ、除却その他の事由による損失も対象となり得ます。
誤解4 減価償却費勘定だけで30%基準を判定できる
修繕費、消耗品費、研究開発費、減損損失などとして経理された金額でも、税務上「償却費として損金経理した金額」に含まれることがあります。
誤解5 組織再編をすれば特定資産の保有期間がリセットされる
制度開始日前2年以内などの一定の組織再編については、移転元法人の保有状況を引き継いで特定資産を判定する特例があります。
まとめ
グループ通算制度の開始に当たっては、開始前の繰越欠損金を持ち込めるかどうかだけでなく、制度開始後に生じる損金算入制限と損益通算制限まで検討しなければなりません。
特に重要なポイントは、次のとおりです。
- 制限が問題となるのは、原則として、時価評価対象外法人のうち、支配関係5年以下かつ共同事業性がない法人です。
- 支配関係発生日以後に新たな事業を開始した場合には、開始前の一定の繰越欠損金が切り捨てられるだけでなく、開始後の特定資産譲渡等損失も損金不算入となることがあります。
- 新たな事業を開始していない場合でも、多額の償却費が生じる事業年度には、通算前欠損金額全体の損益通算が制限されることがあります。
- 多額の償却費が生じない事業年度であっても、特定資産譲渡等損失に達するまでの通算前欠損金額は、損益通算の対象外となることがあります。
- 多額の償却費に関する30%基準では、会計上の減価償却費だけでなく、修繕費、消耗品費、減損損失、研究開発費などに含まれる一定の金額も確認する必要があります。
- 制限期間は、原則として、グループ通算制度開始日以後3年経過日と、支配関係発生日以後5年経過日のいずれか早い日までです。
- 制度開始後に新規事業を開始した場合や、グループ内組織再編を行った場合にも、判定をやり直す必要があります。
- 時価純資産価額に関する特例を利用できる場合がありますが、明細書の添付と時価算定資料の保存が重要です。
グループ通算制度は、グループ内の損益を通算できる有用な制度です。しかし、制度開始前から存在する含み損や欠損金を無制限に利用できる制度ではありません。
制度開始を検討するときは、少なくとも各法人について、支配関係発生日、開始前欠損金、特定資産、新規事業計画、設備投資計画、組織再編履歴を一覧化し、制限期間中の税額を事前にシミュレーションすることが大切です。



グループ通算制度の効果は、制度開始初年度だけでは判断できません。開始後3年程度の事業計画、資産売却計画、設備投資計画、新規事業計画まで含めて試算し、想定外の損金不算入や損益通算制限を防いでください。










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